「今までキャリアを優先した決断ばかりしてきたけど、これから結婚したり、子供ができたりしたら、自分がどうなってしまうのか? というか、そもそも結婚の相手を探さなきゃ……」
「ハーバードに来ると、みんな世界のリーダーになるんだ!! という教育を受けるけど、自分が本当にそうなれるのか不安だ」
「自分の悩みを友達に相談しにくくなっちゃった。だって、あなたはハーバードに行って、いいキャリアも築いていて、おカネも不自由してないのに何が不満なの? こっちからしたらぜいたくな悩みだよ!、と言われちゃうんだよ」
「ハーバードの学生って一見、人生で何の苦労もしたこともないように見えるけれど、結構、みんな苦労もしているし、眠れないほどの悩みや不安もあるんだな、と思いましたね」と、呉さんは言う。
呉さんの悩みは、ハーバードに来て、「人に伝えること」「人に教えること」への関心が強くなってきたことだった。もちろん社費留学生なので、卒業後は、三井物産で活躍することは約束されている。でも、この「人に教えたい」という思いはどうしたらいいのか。
それに対し、アメリカ人のチームメンバーがアドバイスをくれた。
「ブンショーの話を聞いていると、とても『仲間』を大切にする人だということがわかるよ。組織に対する忠誠心がとても強いよね。部活の仲間とか、会社の寮の仲間とか。
その価値観をこれからもいちばん、大事にしたほうがいいよ。それがブンショーのコアバリューなんだよ。だから、今は、所属している会社と仲間との関係をいちばん大切にしたらいいじゃないか」
ビジネススクールで教鞭を執るのは、商社の仕事を全うしてからにしようと思った瞬間だった。
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