企業側においても、新卒一括採用が負担になっているという話はほとんど聞いたことがない。現状では、多くの企業にとって中途採用より一人当たりの採用経費が安くなっていることは間違いない。経済合理性がなければとっくの昔に廃れた採用方法になっているはずだ。多くの企業は、新卒採用と中途採用を組み合わせて、企業ごとの採用戦略、人材育成計画を立てている。そもそもそうした人事戦略について国が口を出すことではないはずだ。
また、新卒一括採用の是正が働き方改革につながるという考えが良くわからない。ワーク・ライフ・バランス、ダイバーシティ、長時間労働の是正、女性活躍推進など、なに一つをとっても、学生時代に採用・就職が決まることと関係はないと私は思う。
卒業後も就職のチャンスはある
実は、日本の新卒一括採用批判として典型的に見られるのが、学生時代に就職しないと社会からの落ちこぼれになってしまい、就職できなくなるというものである。それが「日本の新卒一括採用=悪」の主要な根拠となっている。
実は、これこそが誤った先入観なのである。人事・雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏は、著書の中で、「学生が卒業までに就職できず、一度無職・フリーターになってしまうと就職が無理というのは都市伝説」と指摘している。2010年に発表された厚生労働省・若年雇用実態調査の数字では、大学卒業後1年以内に正社員として就職できなかったフリーター、無職者の約半数が正社員化している。既卒未就職者でも採用する企業は、中小企業だけではなく一定規模の中堅企業にも広がっている。さらに既卒未就職者の採用支援をする会社も増えている。
こうした中堅・中小企業に目を向ければ、就職できる企業は、卒業前でも既卒でも学生にはたくさんある。むしろ問題なのは、就職活動中に疲弊し、自信をなくして就職活動自体から引きこもってしまう学生が多く存在している現状である。
この問題については改めて論じることにするが、新卒一括採用のせいでそのことが引き起こされているわけではないことを明言しておく。むしろ、新卒一括採用は、社会全体が若者の雇用を安定させるための装置になっている。問題は、企業の採用プロセスを歪ませている新卒採用市場の構造であり、それこそが批判の対象にならなければならない。
政府は2016年度新卒採用の選考時期を大幅に遅らせるように経団連をはじめとした経済団体に提言し、2016年度以降の大卒採用、就職市場を大混乱させたという苦い経験があるはずだ。同じ過ちをしないでいただきたいと思っている。
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