そもそも、日本の新入社員の離職率は他国に比べて高いのだろうか。日本と同様の方法で調査したデータが見当たらないが、世界的な人事コンサルティング企業・ヘイグループの調査によると、世界19カ国平均の年間の離職率は、2015年の予測値で22.0%となっている。これに対して日本のパート社員を除く一般労働者の年間離職率(2014年)は12.2%と、かなり低い水準だ。さらに日本の2014年卒学生の入社1年以内の離職率は13%となっており、日本全体の平均的な離職率とほとんど変わらない。
新卒一括採用しない中小企業の離職率が高い
そもそも日本でもかなり以前から「七・五・三」といって、中卒、高卒、大卒の3年目までの離職率は、それぞれ70%、50%、30%近辺で推移している。社会経験の乏しい若者が初めての職場から離職する割合は、若いほど高めに出る傾向がある。いずれにせよ大卒が「新卒一括採用」だからといって離職率が著しく高くなっているわけではない。
さらに言えば、新卒者の入社後3年目までの離職率約30%という数字がより低くなることが、そもそも良いことなのだろうか。そもそも前述のとおり、日本の離職率は諸外国に比べてかなり低く、雇用の流動性の観点から望ましくないという見方もある。さらに日本の就職人気の高い業種(金融、自動車、鉄道・輸送、製造業、通信など)の主要大手企業はほとんどが新卒一括採用をしているが、3年以内の離職率はいまでも2~3%以内のところが多く、かなり低い。
一方で離職率が高いのは中小企業だ。厚生労働省のデータによると、従業員1000人以上の企業に入社した2012年3月卒業生(大卒)の3年目までの離職率は22.8%にとどまる一方、従業員5人未満の企業の3年目までの同離職率は59.6%、従業員5~29人の企業では51.5%と非常に高くなっている。経営が安定しない中小零細企業の場合、やむを得ないリストラを実施するなど、自分の意思に反して転職を決断する人は少なくないだろう。そもそも零細企業をはじめ、中小企業では新卒一括採用を行ってない企業が多い。
このように世耕大臣の発言は、新卒一括採用がミスマッチを生み、離職率を高めているという誤った先入観に基づいていると言わざるをえない。そもそも30%という数字が高すぎるというなら、その妥当性について少なくとも客観的に説明する必要があるだろう。
次に、「新卒一括採用を学生も企業も負担だと思っている。また、働く人にとっても企業にとっても、新卒一括採用は感覚が合わない」という発言は、何を根拠に言っているのか。
HR総研が2017年卒予定学生に対しておこなった調査では、学生時代の早期に就職を決めることを望む学生の方が圧倒的に多かった。通年採用や卒業してからの就職活動だと、就職できるだろうかという不安と、その間の生活費をどう賄うかという問題が出てくる。卒業してからの就職活動が一般的な欧米では、若年層の失業率が日本よりおしなべて高く、日本も卒業後の就活を一般化させたら失業率が高まる可能性が高い。それでも新卒一括採用をやめるメリットは何だろうか。
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