現代のあらゆる独裁者のなかで最も風変わりに見えるのは、北朝鮮の金正恩 (キム・ジョンウン) だろう。彼のきれいに剃られた後頭部と側頭部は、彼の祖父がしていた、1930年代の無産階級 (プロレタリア) の髪型をわざとまねて洗練させたものだ。彼の父、金正日 (キム・ジョンイル) は、エルヴィス・プレスリーのオールバックを見習おうとしたが、ほとんどうまくいかなかった。
だが、民主政治においても自己風刺が効果的なことがある。ウィンストン・チャーチルは、多くの点でジョンソンが手本とする人物だが、いつも必ず大きな葉巻を持ち歩くようにしていた。たとえ、吸うつもりがない時でもだ。彼は自分の薄い髪について、できることはそれほどなかったが、確かに他の誰とも違う服装をしていた。英国の政治家で、戦時中すら、ファスナーのついた作業服の類を選んで着ていたのはチャーチルだけだ。
典型的な上流階級の人は、礼儀正しさという中流階級の退屈な基準に従う必要を感じない。考え抜かれた無頓着、あるいは洗練された奇妙さは、そんな上流階級の人のしるしだった。
チャーチルは、多くの主流派の政治家が見逃したことを理解していた。大衆の心をつかみたいからといって、大衆であるふりをすればよいわけではない。上流階級出身なら、むしろそのことを誇張し、自らを上流階級の風刺画に変えればよいのだ。臆病な中産階級を軽蔑するが、自分の猟場の管理人とは仲良く付き合う上流階級の人のようになればいい。ジョンソンは上流階級ではないが、イートン・カレッジに通っていたため、簡単に上流階級のふりをすることができ、その技術を最大限に用いている。
アウトサイダーを装う必要性
米国には正式な上流階級の人はおらず、財力のほうが重要だ。トランプの人気の秘密の1つは、持っているとされる莫大な富を誇示している点にある。トランプは、必要であれば、その富を大げさに言い立てさえする。ルイ14世の家を模倣した彼の家にある、おかしな金の椅子は、上流階級のスタイルを品なくまねたものだ。
フォルタインは、より控えめな規模のオランダにいて、ベルルスコーニはより堂々とした舞台のイタリアにいるが、どちらも似たようなセンスをしている。人々にとっては、これが理想の本質であり、そのため彼らを評価したのだ。わずかしか持たない人々の理想を肯定することこそ、ポピュリズムの成功にとって大切だ。
重要なのは、これらの政治家たちが退屈で穏健な主流派とは違っていることだ。たとえ政界の内情に明るくても、アウトサイダーを装う必要がある。つまり、政界の既成勢力に反対する一般市民を支持できる人を装う必要があるのだ。奇妙であること、つまり、上流階級のおかしな特徴や派手な暮らしぶり、無礼なジョーク、よく考えた上での俗っぽさ、非常識なヘアスタイルが、強みになる。
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