もし、ドナルド・トランプが大統領選挙で勝利を収めれば、史上初の「政治経験なき実業家大統領」の出現になる。さらに、これまでレーガン大統領が持っていた最年長就任記録を塗り替えて 70 歳で大統領宣誓を行うことになる。当初、泡沫候補だと思われていたトランプが共和党大統領候補の座を射止めるまでに大躍進を遂げたことは驚きだが、大躍進の背景には、アメリカ人が求めてきたリーダー像がそこにあるのも事実だ。
これまでも実業家出身の大統領はいた。代表的な例は第29代ウォレン・ハーディング(任期:1921〜1923 年)と、第31代ハーバート・フーヴァー(1929〜1933 年)、それにジョージ・ブッシュ親(1989~1993年)・子(2001~2009年)の4人である。その中でもトランプと類似性を持つハーディングに注目してみたい。
「アメリカを第一に」は共和党の伝統
ハーディングは、低迷していた地方紙の発行権を買い取って軌道に乗せたことで財を成すきっかけを作った。ただトランプと違って政治経験はある。オハイオ州上院議員、オハイオ州副知事、連邦上院議員なとどを歴任している。1920 年の大統領選挙でハーディングは共和党候補として当選した。ハーディングの勝利の要因は、時代の要請を敏感に嗅ぎ取ったことにある。多くの国民は、ウィルソン政権が第一次世界大戦で外国の厄介事に巻き込まれたことに飽き飽きしていた。「アメリカを第一に(America First)」と「常態への復帰 (Back to Normalcy)」というハーディングの唱えたスローガンは有権者の心を掴んだ。
「アメリカを第一に」は共和党の中で、その後も脈々と受け継がれる伝統になる。1992 年の共和党の予備選挙でも、パット・ブキャナン候補が「アメリカを第一に」を唱えて現職のブッシュ大統領に挑戦した。ブキャナンは、自由貿易の推進がアメリカの製造業に深刻な打撃を与え、不法移民がアメリカ人から職を奪っていると主張した。
今、トランプはまさに同じ主張をしている。そして指名受諾演説で「アメリカを第一に」というスローガンを前面に押し出しており、「我々の目標と我々の対抗者の目標の最も重要な違いは、我々の目標がアメリカを第一に置くことにある。グローバル主義ではないアメリカ主義が我々の信条だ」と、トランプは主張しているのだ。
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