トランプが最も売りにしているのは「正直であること」だ。トランプは、「私と他の候補の唯一の違いは、ずっと正直で私の女達が綺麗なことだ」と言っている。さらに候補指名受諾演説では、「我々の党大会ではウソはない。我々がアメリカ国民に与える物は真実の他にない」と訴えている。そして、大事な箇所で「私を信じろ」と強く訴える。
正直さはアメリカ人にとって政治家として重視される資質だ。例えば歴代大統領の中で 最高評価を受けているエイブラハム・リンカンのあだ名は「正直なエイブ(Honest Abe)」である。また後世の作り話とはいえ、ジョージ・ワシントンの桜の木の逸話はウソを付かないことが大事だと示している。
トランプの言葉は単純明快で分かりやすいのだ。しかも正直さを演出する仕掛けがある。これまでトランプはテレプロンプター(演説の草稿を表示する機械)をほとんど使わずに演説をこなしてきた。それはショーマンシップをテレビで培ったトランプならではの手法と言える。
テレプロンプターを使うと、草稿を読み上げる形になりがち。その結果、ライブ感が損なわれ、演説中の身体動作が僅かだが制限される。一方で、テレプロンプターを使わない演説スタイルは、今まさにその場で喋っている感じが強まるのだ。言葉に真実味が増す。さらに力強さを演出する身体動作を自由に行える特徴も持つ。
ただ共和党の大統領指名受諾演説の演壇には、テレプロンプターが据えられていた。今後、テレプロンプターを多用すれば、これまでのトランプ節が勢いを失うかもしれないと懸念する支持者も少なくない。
「 政治的アレキサンダー」としての資質
「ゴルディオンの結び目を切る」という格言がある。それはアレキサンダー大王の故事に 由来している。
小アジアにあるゴルディオンという街に戦車に固く結び付けられた綱があった。綱の端がどこにあるかさえ分からない。伝説では、その結び目を解いた者が世界を手にするという。 戦車の前に立ったアレキサンダー大王はどうしたかというと、剣を抜いてその結び目を断ち切ったのだ。このことから「ゴルディオンの結び目を切る」とは、すなわち一刀両断で難問を解決するという格言となった。
熱烈な支持者がトランプに期待することは、「政治的アレキサンダー」になることだ。本来、政治とは綱の結び目を解くように、利害の調整を根気強く行う作業である。特に連邦議会は、様々な利害を代表する議員達が何度も繰り返し議論を戦わせる場である。「慎重さと熟慮」が連邦議会の本質であるが、有権者からすれば、それは時にまだるっこしく思える。 その一方で大統領の本質は「迅速さと活力」にある。二大政党の対立で政治が停滞した場合、結び目を断ち切るように、それを打破できるのは大統領だけだという期待がある。
トランプが言葉を実行に移せる男であれば、「政治的アレキサンダー」になれる資質は十分にあるだろう。それはアメリカ大統領にとって非常に重要な資質である。なぜなら時代の要請に応えて大胆な変化を遂げた大統領制度こそアメリカを超大国の地位に押し上げた一因だからだ。「アメリカを再び偉大にする」というトランプのスローガンは、「法と秩序」の下、アメリカを再建する決意であると同時に、大統領のリーダーシップを刷新する覚悟でもある。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら