南方週末を読みあさった留学時代
南方週末については個人的な思い出がある。
1997年、福建省のアモイにあるアモイ大学新聞研究所に留学していたときのことだ。中国の新聞をとにかく読み尽くそうと決意し、毎週20紙以上の新聞を購読した。中国にも新聞の宅配制度がある。ただし配ってくれるのは郵便局だ。毎日、学生寮の郵便棚には山のような新聞が積まれた。とにかく抜群に読むのが楽しみだったのが、毎週金曜日に届く南方週末だった。
当時はいま流行の「都市報」と呼ばれるタブロイド形式の新聞はなく、どの新聞も宣伝色が強い中で、南方週末だけが唯一、腐敗や犯罪にもどんどん切り込んでいた。当時、切り抜いた多くの南方週末の記事はすっかり変色して私のファイルブックに今も挟まれている。
あまりにも南方週末が好きだったので、留学生活も終わりに近づいたころ、広東省の省都・広州の南方週末編集部をアポなしで訪ねた。確か朱という名前の副編集長が応対してくれたが、そのときいったい何を話したかまったく覚えていない。
リベラルで宣伝色の薄い、南方系メディア
いつかは共産党とぶつかる――そんな予感をはらみながら、1994年創刊の南方週末は中国全土でつねに100万部を売り切る新聞として地位を確立していった。
2009年、オバマ大統領が訪中で南方週末を指名してインタビューに応じた。その際にオバマ大統領から贈られた直筆のメッセージと大統領の写真を削除するように宣伝部から指示され、一面が白紙で発行される「事件」が起きた。この事件により、逆にその知名度は世界に広がった。そして今回のケースもまた、「南方系メディア」vs.「中央宣伝部」の長期的対決の一環と位置づけられる。
ここで言う南方系メディアとは、南方週末を一種の核として中国メディア界に根を張ったグループを指している。南方報業伝媒集団は、南方週末だけでなく、南都週刊、南方人物週刊、南方都市報などのメディアを有し、そのどれもが広東のみならず中国全土で人気を博している。さらに北京で人気ナンバーワンの新京報、上海の東方早報なども南方週末との関係が深い。
これらの新聞の論調は基本的にリベラルで党の宣伝色が薄い。ゆえに販売成績がよく、大衆に影響力を持つ。南方系メディアで育った気質を持った記者たちは各地に広がり、中国で有数のポータルサイト「網易」や「騰訊」にも南方出身者が多いとされるが、メディアで一大勢力を形成しているのである。
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