「安ければいいというものでもない」の是非を問う?
アメリカでも「ペーパーバックオリジナル」という、ハードカバーを前提にしない娯楽小説分野があり、そこからジム・トンプスンのように高く評価される人も出てきました。
同じようにスタンダールのフランスでも娯楽小説専門の売れっ子がいた。その一人ビゴロー氏の小説についてパペラ=スタンダールは「必ずハンサムでスタイルもよく、出目の大きな目を持った男が主人公」などと、ちょっぴり悪口も言っています。少女漫画のキャラクターみたいですね。
ちなみに当時の小説の読者はほとんどが女性で、地方の読者でも月に5、6冊読むのは普通だったそうです。考えてみると日本でも『源氏物語』を書いたのは紫式部。伝統的に小説は女性のものだったのですが、実をいうと今でもPOSデータを見ると、小説を買うのは女性のほうが多いそうです。
すっかり斜陽産業扱いになった日本の出版界ですが、中でも特に厳しいのはどこかというと雑誌。そしてやはり、高価な上製本。だから文芸書などは不況の波が直撃している分野となります。
では「日本でもコンビニ本のような廉価なペーパーバックオリジナルをもっと盛り上げれば」と思うところなのですが、これが「再販制度と委託販売」という日本の出版風土ではなかなか難しい。
書籍はよく知られるように委託販売として店頭に並びます。つまり売れなければ返本される。出版社はそれをまた、今度はもっと売れそうな書店に出荷する。こういう出し入れを案外細かく行っているものなのですが、その際、ペーパーバックだとすぐ劣化してB級品になってしまいます。
しかし日本の書籍は基本的にカバーがかけられていますから、汚れても掛け替えて出荷できる。逆にいうと日本の書籍市場ではカバーのないペーパーバックは流通リスクが高くて、かえって高コストになってしまうのです。
では現状のままで仕方がないかというと、やはり「大きな賞を取ってすら昔ほど売れない」という状況があるわけで、変化は必要のはず。実際、文庫本に目を向けると、最初から文庫本でデビューしてそれが大ヒットになるという波が出てきました。
また若者向けのライトノベルがほかと比べて好調ですが、もしあの分野がハードカバーで提供されていたらそうとう厳しかったと思います。
「安ければいいというものでもない」と言われてきた出版界ですが、やはり価格について真剣に考えていかねばならないと感じます。
撮影:今井康一
【初出:2013.2.9「週刊東洋経済(海外移住&投資)」】
(担当者通信欄)
売れることのできなかった、返品されてしまった本は、お店に置いていただいた間にくたびれてしまったカバーや帯を新品に取り替えて、再びピカピカになって新天地を求め倉庫を旅立ちます。それを見越して、出版社では、最初からカバーや帯をちょっと多めに作っておいたりするものなのです。もちろん、倉庫からは「もう戻ってくるなよー!」と送り出しています…!
さて、堀田純司先生の「夜明けの自宅警備日誌」の最新の記事は2013年2月12日(火)発売の「週刊東洋経済(特集は、シェール革命で日本は激変する)」で読めます!
【ガラパゴス生まれの“クールジャパン”】
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