バター不足の「本当の理由」を知っていますか 民主党への政権交代で事態はさらに複雑に

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山下 一仁(やました・かずひと)/1955年生まれ。東京大学法学部卒業。同博士(農学)。農林水産省入省。ガット室長、農村振興局次長などを経て、2008年経済産業研究所上席研究員。10年から現職。著書に『日本の農業を破壊したのは誰か』『農協の大罪』『農業ビッグバンの経済学』『日本農業は世界に勝てる』など

──バターは国家による独占貿易品目。輸入で調整すればいいのでは。

確かに乳製品はコメ、麦と並ぶ国家貿易品目であり、バターの輸入は巨額の関税を払わないかぎり民間が独自にはできない。農水省の指示で農畜産業振興機構(alic)が低関税で一手に輸入する。生乳の流通も価格も一元的に管理するためだ。

酪農の世界は飲用乳価の維持で動く。脱脂粉乳、バターが余ってくると、これらから加工乳を造れる。そのため、飲用をダブつかせかねない。どちらかを余らすと問題が起きるので加工原料乳向けの生乳生産を抑える。脱脂粉乳、バターのどちらかが足りない、ないし需給が共にタイトなら乳価を上げやすい。

──かつて11年度にバター輸入を増やしました。

生産の事実関係に政治的な動きが加わる。当時農水省は民主党政権下で、かなり輸入を増やした。自民党には酪政会という、日本酪農政治連盟とつながる議員の会合があって、酪農家の団体と歴史的にタイアップしている。民主党にはそんな組織はない。自民党政権なら輸入し余って乳価に影響したらと神経を使い、輸入もほどほどに抑制しただろう。農水省は裁量で輸入しても民主党政権には怒られないと踏んだのかもしれない。

──今回も政治が絡んでいる?

複雑そうだが、もともと仕組みはシンプル。バターと脱脂粉乳が乳製品として重要なのは、飲用牛乳の需給、価格に影響を与えるからだ。牛乳はバターと脱脂粉乳からできていて、混ぜるとまた牛乳に戻る。可逆性があるからバターと脱脂粉乳が重要なのだ。乳製品でもチーズは自由化しても影響はない。だから、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉でも関税をゼロにした。バターと脱脂粉乳は絶対に下げない。枠の拡大だけで米国と合意した。

品薄にすれば農産物の価格は上がる

──今後もバター不足は起こりうるのですね。

今でもバター不足はそんなに回復していない。スーパーなどに行くと売り場がマーガリンに比べ小さくなった気がする。

──足りない状態が続くと。

輸入するとしても小出しだ。バーンと輸入すると、余ったらどうするのかと詰問される。農水省は怖くて輸入できない。自民党政権では問題が起こればたくさん輸入したからだとして、飲用乳価も下げさせられるのではないかと疑心暗鬼。いつも小出しで、今度も6月あたりにあらためて判断するという。むしろバーンと入れて国内の生産で調整すればいいのだが、予期せぬことが起こるのを恐れ、そういうこともやらない。

農水省はどの農産物も若干少なめにしたほうがいいと考えている。品薄にすれば需給がタイトになり農産物の価格は上がるからだ。農家にとってはいいかもしれないが、消費者にはとんでもないことが起こる。

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