──農政全般でですか。
中心にあるのは米価で、減反で数量を絞り価格を高く維持して、農家の所得、実際は農業協同組合の組織維持を保障している。この考え方は戦後農政の特徴だ。乳価では、加工原料乳について飲用との差額に対して「不足払い」をして、加工用、飲用一律に乳価を維持することによって飲用乳価も上げた。財政で負担してくれたから、逆に飲用メーカーも高い乳価を払うことができる。
本来なら乳製品向けの乳価を下げないと、国際競争力はできない。不足払いされるものだから、乳製品でも赤字が出なくなり、飲用のマージンまで保証してくれ、飲用向けの乳価も抑える必要がない。高く払ってもある程度のメリットが生じる構造になっている。ものすごくうまくいく仕組みだ。一般消費者の利益や国際競争力を考えなければ、だが。
価格に依存する組織が日本だけにある
──諸外国は価格保証でなく所得補償に転換していますね。
米国も欧州連合(EU)も農家への「直接支払い」に変えている。なぜ日本だけできないのか。極論すれば、農協があるからだ。農産物に高い値段を設定すると、それだけマージンを多く取れる。乳価、米価が低くても直接支払いで補償してもらえば農家は困らない。だが、農協は価格が下がると、価格によって決まる販売手数料が減る。直接支払いの補償は農協には行かない。だから組織維持で抵抗する。
──日本は直接支払いに移行できない?
米国やEUには農協のような政治団体と経済団体を兼ねた組織はない。政府に働きかけて、直接支払額を大きくせよとか、価格を高くしろとかの政治活動はするが、その組織自体が経済活動をしているわけではない。日本の農協は銀行も保険もやるし、なおかつ政治活動もやっている。価格に依存する組織が日本だけにある。直接支払いは農協にとってメリットがないから、旧来の価格保証に固執する。そういう組織論理、組織利益が問題の根源にあり、直接支払いに移行できない。
──食料安全保障でも問題?
価格維持をやめて直接支払いに移行しても、農家自体は困らない。むしろ農地依存型の畜産になる。今米国から輸入したトウモロコシを食べさせて畜産をしている。これでは食料安全保障に何も役立たない。トウモロコシ輸入が途絶えるだけで、日本の畜産はアウト。シーレーンが破壊されたら畜産は壊滅する。おかしな畜産になってしまっている。
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