フランスのレストランは日本とまったく違う 「劇場気分」を味わえるのが最大の魅力

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パリの自宅近くにあったレストランも、そんな劇場気分の味わえる場所だった。フランス南西部の料理が名物で、紙のメニューのほか、その日のおすすめ料理が黒板に書かれていた。開店後しばらくすると、60代ぐらいの女主人が各テーブルをあいさつして回る。常連客のテーブルでは、長々とおしゃべりする。

何度か訪れるうちに私たち家族も顔なじみになり、大人にはシャンパン、子どもにはジュースがサービスされることもあった。女主人は、にこにことよく笑い、愛想よくおしゃべりし、店内を歩き回って注文を取り、料理を運ぶ。このレストランを劇場に見立てるならば、主演女優という趣だった。

あるとき、女主人が私たちのテーブルにやって来て、レストランの開店10周年を祝うパーティーがあると伝えてきた。偶然にも、子どもの誕生日と近い日取りだった。「うちの子どもも、そのころ誕生日です」と女主人に告げると、「パーティーに来てくれたら一緒に祝ってあげますよ」と言う。

誕生日を祝ってくれた女主人の計らい

パーティー当日の夜、レストラン前の広場には、テーブルやいすが並べられ、100人分ぐらいの席が用意された。バスク地方(大西洋岸のフランスとスペインにまたがる地域)の歌や音楽が演奏され、にぎやかな雰囲気だ。普段より多い客をもてなすために、臨時の従業員も雇われている。女主人はウェイターに指示を与えたり、客とおしゃべりしたり、いつもに増して忙しそうだ。我が家のテーブルには、やって来る気配がない。

食事が終わりに近くなり、「誕生日のことは、忘れられたのかな」と思い始めた。そのとき、女主人に伴われ、音楽を演奏していた一団が、私たちのテーブルに近づいてきた。子どもの前で、10人ぐらいの男性が「ハッピーバースデートゥーユー」をバスク語で歌い始めた。歌詞は理解できないが、誕生日を祝ってくれていることはわかる。歌が終わると、女主人が子どもに小さな鉢植えの花をプレゼントしてくれ、ほかの客が盛大な拍手を送ってくれた。このレストランでは珍しく、私たち家族が注目を浴び、「観られた」瞬間だった。

国末 則子 フリーライター

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くにすえ のりこ / Noriko Kunisue

フリーライター。東洋経済新報社、朝日新聞記者を経てフリーライターになる。2001~2004年、2007~2010年の2度にわたってパリに滞在し、2人の子どもを現地校に通わせた。著書に『パリの朝食はいつもカフェオレとバゲット』(プレジデント社)。
 

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