決着つかず延長へ ヤクルト買収攻防戦

交渉は二転三転

Column 1本の積み重ねが導く新興国での成功 

街全体に漂う異臭が鼻をつく──。フィリピンの首都、マニラの中心部から北に車で20分、観光客どころか一般市民も近づかないトンド地区はアジア有数のスラム街だ。ゴミ山を囲んで建つトタン板を張り合わせた家はどれも色あせている。そこへ、クーラーボックスをカートに載せた中年の女性が慣れた足取りで歩いてくる。「あっ!ヤクルト!」次々と地元住民が集まってきた。日本でもおなじみの「ヤクルトレディ」がここマニラのスラムでも定着していた。

ヤクルトがフィリピンに進出して来年で35年になる。「インフラがない時代から踏ん張ってきた」と、進出初期に駐在し、基盤を作った川端美博副社長は振り返る。1本8ペソ(約16円)。ヤクルトは日本と同基準の厳しい品質で安価な商品を地元の工場で造っている。平均月収8000円のフィリピン人にとって、ヤクルトは身近な栄養食品だ。「フィリピンでは今も赤痢や腸チフスになる人が多い。だが、薬は高額。少しでもお腹にいいものを皆必要としている」と、ヤクルトフィリピンの小野瀬祥副社長は言う。

ヤクルトの海外戦略は他社と一線を画している。M&Aはせず、自力で愚直に売ってきた。「ヤクルトレディは『ちりも積もれば山となる』地道な販売システム。簡単にまねされない」とヤクルトフィリピンの江上健二氏。

ヤクルトの海外事業は好調だ。特にアジア、南米の新興国で成長が著しい。リーマンショック後も右肩上がり。世界31の国と地域での今年前半の販売本数は過去最高の2126万本。すでに前年1年間の実績を141万本も上回っている。震災後の国内市場の苦戦をカバーする。

独自哲学が成功のカギ

好調なフィリピンだが、実は株式の6割を持つのは地元フィリピンの華僑。海外のヤクルトは地域によってパートナーがいる場合がある。だが、実際の現場はヤクルトが運営している。「パートナーはほとんど役立っていない」と関係者は言い切る。他と相容れない独自の経営哲学こそ、ヤクルトの強みなのだ。

(撮影:今井康一 =週刊東洋経済2012年11月10日号)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

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