為末大が考える東京パラリンピックの可能性 オリンピアンとは違った迫力と魅力

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彼らの走りや跳躍は、オリンピアンとはまた違った迫力と魅力に満ちていた。よく一緒に練習していたアフリカ系の選手は、義足のためにスタートこそ遅いものの、バックストレートに入ると驚異的にスピードをあげ、それを維持することができた。私はそういうアスリートと何人も出会い、いつの間にか彼らに、同じアスリートとして尊敬の念を感じるようになっていった。

ロンドン・パラリンピックのときに、パラリンピアンのことを「スーパーヒューマン」と呼ぶキャンペーンが話題になったが、私が一緒に練習していた彼らもまさにスーパーな存在だった。スプリント系の陸上競技ではパラリンピアンの多くが義足を使っているのだが、この義足が彼らの武器だ。義足の特性を把握し、上手に活用することで、彼らはときにオリンピアンもしのぐほどのスピードや跳躍を実現する。

ドイツの走り幅跳びの選手、マーカス・レームが昨年ドイツ選手権で出した記録は、8m24cm。これは、ロンドン・オリンピックの銀メダルに相当し、あと1cmで日本記録という記録だ。彼は、オリンピアンよりも遠くまで跳ぶ初めてのパラリンピアンになる可能性が高い。100m走でもトップ選手は、10秒4程度まで記録を伸ばしてきている。これも日本選手権なら、確実に上位に入る記録だ。数年後とはいわないが、いずれウサイン・ボルトの記録を抜くようなパラリンピアンがあらわれたとしても不思議ではない。

なぜ記録が大きく伸びているのか

記録が伸びている最大の理由は、競技人口の増加だろう。ロンドン・パラリンピックの成功は、多くのスターパラリンピアンを生み、彼らがプロアスリートとして活躍する土壌ができた。ハンディキャップを抱えた人たちがそこに希望を見出し、ふるいたったであろうことは想像に難くない。さらに戦うための武器である義足も進化し、選手の技術も向上している。私も開発に携わりながら、義足のテクノロジーの進化を目のあたりにしている。常にさまざまな新しい素材を試し、アスリートが使った感覚を伝えて調整し、より完璧を目指す。トップ選手になると、義足の調整をするためのテクニカルスタッフもいる。誤解を恐れずにいうならば、F1のようにテクノロジーと人間の力が結集しているのがパラリンピックの世界なのだ。

私は、ここからさまざまな知見が生まれるようにも感じている。高齢化社会が進むと、機能障害を抱える方の数も増えていくだろう。そのときにパラリンピックで培ったテクノロジーが必ず役に立つはずだ。義足から生まれた技術が歩行困難になった老人を救い、進化した車椅子が病を抱える方の力になる。そういった進化がビッグビジネスに繋がる予感もある。

もし私が2020年の東京パラリンピックのコンセプトを決められるのであれば、「HUMAN2.0」としたい。生身の人間を超え、肉体とテクノロジーが結びついて生まれる新しい時代のアスリートたちの祭典。そこにはオリンピックに負けないスポーツとしての面白さがある。

パラリンピアンは、新しい時代のヒーローになりうる存在だ。パランピアンがオリンピアンを超え、パラリンピックがオリンピックを超える日も遠くないのかもしれない。

為末 大(ためすえ だい)/1978年広島県生まれ。ハードル選手として、3度のオリンピックに出場。2012年、現役引退後は、一般社団法人アスリートソサエティ、為末大学、Xiborgなどを通じ、スポーツ、社会、教育、研究に関する活動を幅広く行っている。

 

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