「自宅が登録有形文化財」築150年の旧家に住む夫妻、13代目が守る"誇り"と"維持"のリアル 群馬県太田市・片山家住宅

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

「それが子どもたちにも薄々伝わっていることは、言葉の端々から感じます。ときには暮らし方について『それ、センス悪いよ』なんて厳しい指摘も受けたり。そういう会話が遠慮なくできる関係性がうれしいんです。でも、次の代は大変だと思いますよ。どんどん傷んできますから」

個人所有からパブリックに?

長男の洋平さんは、会社勤めを辞めて2年間の農業研修を受けていたさなか、東日本大震災を機に予定を早めて実家へ戻りました。現在は家業を継いでケールやナスの栽培を行っています。その選択には当然「いずれこの家を引き継ごう」という決意が含まれていました。

「小さいころは、友達の家には自分の部屋があるのに、うちは昔ながらの壁が少ない開放的な間取りで個室にできる空間が少ない……みたいな不満がありましたが、今ではマイノリティすぎる自分の立ち位置が、人とのコミュニケーションに役立ったりもするので、昔は嫌だったけど、今は、人とは違う特殊なこの状況を楽しめるようになりましたね」と笑う洋平さん。

幼いころのご兄弟の写真(写真提供/片山さん)

「正直、家のことを考えると気が重いですよ。古くなればなるほど維持管理が大変になってきますし。私は自分の意思で太田に戻りましたけど、わが子に強制はできないので……先のことを深く考えることを避けている部分もあります。それに、人が住むのにこんなに大きい家はいらないですよね。好きな家に住んでいいと言われたら、迷わずミニマルな家を選びます(笑)」

弟の昇平さんは、そんな運命を背負う覚悟の兄を思いやります。

昇平「やはり代々当主が守っていくというフレームが、これからの時代に正しいのだろうかと、話を聞いている中でも思いましたね。大切な場所を守るためとはいえ、守り手が経済的にも心の面でも追い詰められていく状況って、健全ではないですよね。そう考えた時に、本当に自分たちだけで守っていくことが正解なのか?

僕は今年、前橋市で古い空き家を改修して民泊をはじめました。そこでの学びとして、古い建物のこれからの保全の考え方に、きちんとその価値をお金に変えていくことがキレイごとではなく必要だと感じています。

この家の価値を本当に理解してくれる人に向けて、国内だけでなく、海外にも視野を広げ、家を“開いていく”という試みは、今の自分たちの世代だからこそできることでもあると思います。そういった実家の新しい取り組みを考えていく良いキッカケになりました。改めて、こういう話を家族から聞く機会もなかったので(笑)」

次ページ家に抱く思いは、美しい言葉だけでは表現できない
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事