感謝祭を目前に控えた2025年11月中旬にグーグルは、新たに改良したAIモデル「Gemini(ジェミニ)3」が、ライバルの新興企業オープンAIの技術を上回り、世界最高の性能に到達したと自慢する発表を行った。
それから1カ月も経たないうちにオープンAIは新モデル「GPT-5.2」を公開し、「現実世界の実務用途で史上最高のモデル」だと主張した。同社のブログ記事によれば、このモデルはプログラミング、数学、科学を含む複数の業界標準のベンチマークで首位を記録したという。
だが、業界の専門家の多くが真に注目したのは、オープンAIのいわゆる「基盤モデル」と他社モデルとの間にあった技術的優位性が実質的に消滅したという事実だった。AI開発競争が拮抗するこの状況は、オープンAIにとって危険なタイミングで訪れた。同社は現在、入ってくる収入と出ていく支出との巨大なギャップを埋めようともがいている。
オープンAIの月間売上高は25年末までに年換算で200億ドル(約3兆円)の水準に達する見込みだと、最高経営責任者(CEO)サム・アルトマンは話している。しかし、黒字化への道のりは依然として遠い。同社はAI技術の構築と展開に必要なコンピューティング能力を確保するため、今後数年間で1兆4000億ドルを投じる予定だ。
アンソロピック、ランウェイ…
22年11月にチャットボット「チャットGPT」を公開してAIブームの火付け役となった頃、サンフランシスコの新興企業であるオープンAIは、ライバルに対して明白なリードを築いていた。同社はそのリードを2年以上保ってきたが、ここ1年でアメリカと中国の競合他社は、オープンAIの最上位モデルの処理能力に並ぶか、それすら超える技術を構築するようになった。
「基盤モデルの構築に必要なことについては、その全体像がすでに広く知れ渡っており、主要なAI研究所の内部で行われていることは、だいたいどこも同じ状況になっている」と、最新AI技術の性能評価を行うVals AI(バルスAI)のCEOライアン・クリシュナンは指摘する。
グーグルの新モデル登場から1週間後、サンフランシスコに拠点を置くスタートアップ、アンソロピックも、オープンAIの技術と互角の性能を持つ新モデル「Claude Opus(クロード・オーパス)4.5」を公開。さらにニューヨークのスタートアップ、Runway(ランウェイ)が発表したモデルは、業界標準のベンチマークでオープンAIの動画生成技術「Sora(ソラ)」の性能を上回っている。
オープンAIも競合他社と同様に、技術開発を推し進めている。新モデルGPT-5.2は、コードの生成や、ヘルスケア・金融といった特定分野のタスク処理で顕著な性能改善を見せた。同社はこの新モデルの利用料を、旧モデル比で約40%引き上げるとしている。GPT-5.2を公開する数時間前には、ディズニーがオープンAIに出資し、ディズニー・キャラクターをソラで使用できるようにするライセンス供与に合意したと発表していた。


















