とはいえ、制度が働き方の選択肢を増やし、文化が母親を罪悪感から解放したとしても、それだけではキャリアの継続は保証されない。自分らしく働き続けるためには、もう1つの支えが必要だ。
それが藤田氏の提唱する「心のOS」という考え方だ。
藤田氏が直面した「自己喪失」
藤田氏は、ゴールドマン・サックス、LVMHなど世界的企業で20年以上要職を務めてきたが、その裏には深い葛藤があった。
ロレアルで管理職を務めていた頃、第2子を出産した藤田氏は、「完璧でなければ」「弱さを見せてはいけない」と自らに厳しい期待を課し、心身ともに追い込まれていた。
キャリアダウンや退職も考えたが、自分の働き方やマインドセットを見直すことで、再び前を向けた。
しかし2年前、夫の海外赴任に帯同するため、長年積み上げてきた肩書を手放した。退職届を出した夜、鏡に映る自分が“誰なのか”わからなくなった。自分の価値を見失い、自己喪失に苦しんだ。
こうした喪失と再起を経て生まれたのが、「心のOS」という概念だ。制度や文化では届かない、内側からの支えが挑戦を続ける力になる。
制度や文化が整っても、なお残る“個の壁”がある。それが、心のOSだ。
スマートフォンのOSが古いままだと、動作が重くなる。これは、私たちの思考にも通じる。スキルや経験という“アプリ”をただ増やしても、OSが古いままでは、十分に使いこなせない。
藤田氏の提唱する「心のOS」とは、過去の経験などから無意識に形づくられた思考パターンや自己評価のクセを指す。
「環境や役割が変わっても、心のOSが古いと、“自分には無理だ”と挑戦にブレーキがかかる。状況に合わせて心のOSをアップデートし、思い込みを手放すことが大事なんです」
心のOSを更新することで、変化に柔軟に対応し、行動へ踏み出す力が生まれる。


















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