ブラッターさん、賄賂もらったことありますか 「FIFA腐敗の全内幕」を読む
それでも、彼らにレッドカードが出されることはなかった。FIFAの規約では、ブラッター達は世界のいかなる国の法律の制約も受けないと定められている。普通の民事法廷でブラッターやその他の役員を訴えようとしても、サッカーの法律によって阻止されるという超法規的な出来事がまかり通ってしまうのだ。
気の遠くなるような調査
調査報道とは、タフさが求められる仕事である。おおよその検討がついてからも、証拠を得るまでにはまた別のハードルがある。そして報道が捜索へと進展するまでの間にもまた、気の遠くなるような月日が必要であった。
ただの正義感や熱血漢とはひと味違う、厭世的な語り口ながらも、「老いぼれ一人がFIFAをひっくり返したら面白いじゃないか」という老練な野心が、少しずつ周囲を動かしていく。そして著者はついに、長きに渡って行われたFIFA内部における秘密の支払リストを手に入れる。
事態が大きく動き出すのは、ジェニングス氏が取材で収拾した内部資料が米国のFBIに渡ってからだ。そして迎えた2015年5月27日。米国司法省の意を受けたスイス警察がチューリッヒの高級ホテルにいたFIFA幹部7名を、横領、賄賂、マネーロンダリング、詐欺の容疑で逮捕し、今日に至る。
本書ではこの他にも、2006年ドイツ、2010年南アフリカ、2014年ブラジル、2018年ロシアにそれぞれ開催地が決定した背景や、日韓ワールドカップにおけるイタリアー韓国戦において、なぜ不可解な判定が起こったかについても、つまびらかに言及されている。
これまでに報道された内容と照らし合わせながら読むことで、本書の面白さが倍増することも請け合いだろう。これくらいの表層的なことしかニュースにならなかったこと、それ自体が最大のニュースなのである。
世界最大のスポーツの祭典、ワールドカップ。その裏側では世界最大の悪事の祭典が繰り広げられていた。本書は、その裏側の舞台装置を描き出し、プラットフォーム的な観点から悪事の全貌を描き出す。長期間の独裁政権、情報非公開の慣習、超国籍的に広がったネットワーク。現在渦中の人となっているプレーヤー達が全員が入れ替わっても、この構造にメスを入れないことには悪事を断ち切ることなど出来ないだろうと確信させる。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら