ブラッターさん、賄賂もらったことありますか 「FIFA腐敗の全内幕」を読む

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ゼップ・ブラッター(現FIFA会長)、ジャック・ワーナー(元FIFA副会長)、ジョアン・アヴェランジェ(前FIFA会長)、リカルド・ティシエラ(元ブラジルサッカー連盟会長、元FIFA理事)、チャック・ブレイザー(元FIFA理事)、イッサ・ハヤトゥ(現FIFA副会長)フランツ・ベッケンバウアー(元サッカー選手)。本書に登場するこれらの人物、すべてが黒だ。そして全編を通して金太郎飴のようにビッグスケールな悪事が描かれているから、どのページから読み始めても安心である。

まだ見ぬ見方を得るために

著者によれば、どんな組織でも、トップに腐った臭いがするときは、中間管理職にまともな人間がいるのだという。まだ見ぬ味方を得るために、彼はFIFA会長の記者会見において、満座の前でこんな質問を投げかけた。

「ブラッターさん、あなたは賄賂をもらったこと、ありますか?」

 

ブラッターは即座に否定したものの、良識あるわずかな情報提供者の心を動かすにはそれだけで十分であった。数日後、彼はブラッターの関与を裏付ける大量のドキュメントを手に入れる。

ブラッターはワールドカップが稼ぎ出す何十億もの金を背景に、強大な権力を保持していた。さらにその権力を駆使して、あらゆる国と地域を買収する。取引として使われる通貨は、ほぼ無審査の「開発育成交付金」と莫大な数のワールドカップチケット。闇マーケットに流せば無税の利益となる大量のチケットが、投票場での忠誠と会議での沈黙を約束してくれるのだ。

これらの腐敗のルーツを辿ると、1974年にアヴェランジェがFIFAの一代前の会長に就任した時まで遡る。この時アヴェランジェと親交の深かったのが、リオで闇賭博を牛耳るカストル・デ・アンドラーデ。アンドラーデはアヴェランジェにカーニバルの特等席を用意し、アヴェランジェはアンドラーデに献金する。そのやり取りを通じて多くの影響を受けたアヴェランジェは、国際的犯罪組織を作り上げる術をも学び取った。ギャングの家族同士は、盗んだものを分け合うーーこうして利権を供給し、その代わりに権力維持のため奔走させる、FIFAの悪の構造がスタートしたのである。

彼らに共通するのが、悪事に手を染める時の脇の甘さである。サイドバックのような運動量で賄賂を届け続けたISL社の倒産は、FIFA側があまりに多額の現金を要求したことが理由であるというからまったくもって笑えない。さらにダミー会社を通しての資金洗浄にも綻びが出始める。1997年にはISLがFIFAの口座に直接お金を振り込むという手違いがあり、1999年にも大物幹部の指示によりブラジルサッカー連盟がFIFA宛に大金を振り込むという珍事が続いた。

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