《ミドルのための実践的戦略思考》ジェイ・B・バーニーの『企業戦略論 競争優位の構築と持続』で読み解く金属製品メーカーの人事課長・岩岡の悩み

 

■理論の概説:『企業戦略論 競争優位の構築と持続』

『企業戦略論 競争優位の構築と持続』は、国内外のビジネススクールにおいて、経営戦略の教科書として多用されている書籍です。本書は、「【上】基本編」、「【中】事業戦略編」、「【下】全社戦略編」の3巻構成で、経営戦略における主要な論理が豊富な事例とともにほぼ網羅的に紹介されています。

中でも最も特徴的なのは、上巻「基本編」に記載されている「リソース・ベースト・ビュー」という考え方です。リソース・ベースト・ビューが台頭する以前、経営戦略論は、第1話で紹介したマイケル・ポーターに代表される通り、「いかにして外部環境と整合性のあるポジションを取るのか」という問題として認識されていました。このアプローチの特徴は、企業の業績が外部環境条件によって決まってくる、ということを前提にしていることですが、一方で「同じ環境、同じ業界にいる企業間の間でどうしてパフォーマンスが異なるのか」という問いに対して十分に答えられるものではありませんでした。そこでこの不足点を補うために、「企業業績の差異の源泉を企業内にある経営資源に求める」リソース・ベースト・ビューの考え方が台頭してきたのです。

本書の著者であるバーニーは、まさにこのリソース・ベースト・ビューの第一人者であり、その考え方が『企業戦略論』上巻の5章に簡潔にまとめられています。

リソース・ベースト・ビューにおいては、多くの経営学者が様々な切り口によって企業の経営資源の特性を明らかにしていますが、『企業戦略論』においてバーニーは、「VRIO」というフレームワークを使って、企業の競争優位性の源泉となる資源をいかに分析するか、ということを定義しています。ここではそのVRIOについて詳説しましょう。

■「VRIO」による経営資源の特性分析

さて、皆さんは「御社の強みは何ですか?」と聞かれたら、何と答えるでしょうか。例えば、「技術力」と答える人もいるでしょうし、「トップの決断力」という答えもあるでしょう。はたまた、「有力調達先との間に長年築いてきた関係性」という場合もあるかもしれません。しかし、これら経営資源やケイパビリティは本当に「競争上の強み」となりうるのでしょうか。

そんな時、VRIOのフレームワークにある4つの問いかけを使うことによって、それが本当の強みとなりうるのかをチェックすることができます。具体的な問いかけは以下の通りです。

つまり、真に競争上の優位性をもたらす強みとは、「経済的な価値(Value)」をもたらすものであり、「稀少(Rarity)」であり、「模倣困難(Inimitability)」で、「組織に根付いている(Organization)」ものである、というのが基本的な考え方となります。

問いの順番にも重要な意味があります。つまり、真に強みと言える経営資源とは、まず大前提として「経済的な価値」をもたらすものでなくてはならないということです。これがなければ、単に「競争劣位」という状況になってしまいます。しかし、仮に経済的な価値をもたらすものであったとしても、多くのプレイヤーが同じものを持っていれば、「他と同じ」になりますので、まだ強みとまでは言えません。「競争均衡」状態、つまりようやく土俵に上れた状態になったということでしょう。強みと言えるためには、その経営資源を競合が有していない状態、つまり「稀少」である状態を作ることが重要になってきます。

しかし、いくら稀少であっても、後続プレイヤーがそれを容易に真似できるようであれば、一時的には強みとはなっても、あっという間に追いつかれてしまいます。したがって、その経営資源は「模倣困難」である必要があります。

そして最後に、本当にその経営資源が最大の強みを発揮するためには、「組織」的な方針や手続きとの整合性が取れていることが重要になります。これと組み合わされれば、ようやく競合との競争において持続的に発揮できる強みとなる、と、バーニーは説いています。


この問いの中で特に意識をしたいのが、「模倣困難性」です。我々は、得てして競合によるキャッチアップが起こりうるということを忘れてしまいます。もし自分たちがしようとしていることが本当に価値のあることであれば、時間の差こそあれ、競合もいずれは真似してくるものです。したがって、本当に意味のある経営資源かどうかを考えるためには、「真似ができないか」、もしくは「真似が出来るとしても自社がするよりも他社にとって圧倒的にコストや時間がかかるものか」ということをチェックしておく必要があります。

この「模倣困難性」について、本書においては、「歴史的条件」「因果関係の分かりにくさ」「社会的複雑性」という3つの観点のいずれかに由来すれば、後続企業にとって真似しにくい、という整理がされています。

ちなみに「模倣困難性」の根拠の一つとして、よく「特許」ということが挙げられますが、バーニーは、特許は多くのケースにおいて模倣困難性を高めることにはならない、と述べています。確かに特許があれば、短期的には模倣コストを上昇させることになりますが、特許取得に際して情報公開の必要性があることや、リバースエンジニアリングが可能であるケースが多いのも事実です。特許などの知財をどうマネジメントしていくか、というスキルが組織内にあることは十分優位性になりますし、業界や製品にもよるのですが、一般論としては特許そのものによって持続的な競争優位性を期待することは避けたことが良いと言えるでしょう。

 

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