「子育て」も「近視対策」も……日本は「科学的根拠(エビデンス)」がお嫌い?

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中室:しかし、「過ぎたるは及ばざるがごとし」ということわざもある通り、効果のない検査を過剰に受けることは患者側に悪影響があるケースもあります。ですから、エビデンスを反映させる何らかの仕組みは必要だと思います。アメリカではバラク・オバマ大統領が在任時に、政策の効果の検証を予算要求の条件とする法律が施行されましたが、そうした試みは一考に値すると私は考えています。

近視対策は経済的な効果から見ても優先度が高い

中室:日本の政策立案におけるもう1つの課題は、優先順位の付け方だと思います。私は経済学者ですから、他の条件が一定であれば、経済的な効果が大きい政策を優先するのが合理的だと考えます。その点、近視の予防は経済効果が大きいという試算がありますから、優先順位は高いと思いますが、そう単純でもありません。

私がこれまでさまざまな政策決定プロセスに関わってきた経験からいうと、一気に政策が変わるときは、何か「事件」や「事故」が起こって、社会的に注目が集まった時なんです。

窪田:あぁ、なるほど。

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中室:幼稚園の送迎バスの中に置き去りにされたお子さんが熱中症で亡くなってしまう事件や、ブロック塀が壊れて、その下敷きになったお子さんが亡くなってしまった事件。それをきっかけに政策が変わりました。もちろん、そうした不幸な事故を起こさないことは大切ですが、日本の行政はこうした事故や事件への事後対応に相当のリソースを割いています。しかし、「事故や事件の再発防止」だけでなく、国として人的資本に対してどのように投資していくのかという視点でも、時代の変化にあわせて政策に変化を起こしていくことが必要です。

窪田:そうですよね。綻びをパッチワークしていくだけでは、後追いの後追いになってしまいます。そもそも先読みして適切な対策をとっていれば、事故は防げたかもしれない。将来起こりうる危険を防ぐという意味でも、何か起こってからではなく、その前に政策は立てられるべきです。そのためにも優先順位をつけて、より大きな問題になりそうなところから対処していくことが求められていると思います。

次回は、教育分野でスタートしたばかりの高校授業料の無償化や、中室先生が提案されている公立高校の単願制に変わる「デジタル併願制」について、お聞きしていきます。

(構成:安藤梢)

中室 牧子 慶応義塾大学総合政策学部教授

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なかむろ まきこ / Makiko Nakamuro

慶応義塾大学総合政策学部教授
1998年慶応大学卒業。米コロンビア大学で博士号取得(Ph.D.)。日本銀行等での実務経験を経て、2019年から現職。デジタル庁シニアエキスパート。専門は教育経済学。

 

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窪田 良 医師、医学博士、窪田製薬ホールディングスCEO

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くぼた りょう / Ryo Kubota

慶應義塾大学医学部卒業。慶應大医学部客員教授、米NASA HRP研究代表者、米シンクタンクNBR理事などを歴任。虎の門病院勤務を経て米ワシントン大学助教授。2002年創薬ベンチャー・アキュセラを創業。2016年窪田製薬ホールディングスを設立し、本社を日本に移転。アキュセラを完全子会社とし、東証マザーズに再上場。「エミクススタト塩酸塩」においてスターガルト病および糖尿病網膜症への適応を目指し、米FDAからの研究費を獲得し研究開発を進めているほか、在宅医療モニタリングデバイスや、ウェアラブル近視デバイスの研究開発を行っている。

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