自然界の不思議が研究のヒントになる--『光触媒が未来をつくる』を書いた藤嶋昭氏(東京理科大学学長)に聞く
空気清浄、防汚・防曇、水の浄化、抗菌・殺菌など、暮らしのいろいろな場面で活躍する「光触媒」。この技術はどこまで進化したか。発見者の著者は、まだ道半ばと、将来性に期待をかける。
──光触媒は、一般にはホンダ・フジシマ効果といわれています。
私自身が光触媒を見つけることができてから、もう45年になる。酸化チタンの結晶を水の中に入れて太陽光を当てると、水が分解して水素、酸素を取り出すことができる。1年前に亡くなられた本田健一先生とご一緒した研究が基になっている。
植物の葉の表面に太陽光が当たると、葉緑素が水を分解して酸素を出す。その酸素で私たちは生きている。この反応を人工的にまねることができた。当時、日本の学会は全然信用してくれなかった。英国で発行される総合学術専門誌『ネイチャー』に掲載されて内外で評価された。第1次オイルショックが起こって、この論文によると太陽光を使って水から水素というクリーンエネルギーができるではないか、と海外で評判になった。その後、実験を重ねているものの、水素はまだ期待されたほどには効率的に大量に取り出せないが。
──光触媒は防汚・防曇、抗菌・殺菌、さらに空気清浄、水の浄化など用途が広がります。
それには酸化力を利用する。酸化チタンを透明コーティングして、それに蛍光灯の光を当てたらうまくいく。におい取り、抗菌・殺菌にどうかと共同研究した。さらに、高速道路のトンネル内照明のカバーガラスに付着する排気ガスによる汚れの防止に応用。油汚れを分解でき、掃除の回数が減る。におい取りは空気清浄機のフィルターにして、うまくいった。