ジョブズの「心に従え」はホントに正しいのか?、"自分探し"が止まらない人々が陥る《自己啓発の罠》、永遠に見つからない答えを探して

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自己啓発書で促される「自分探し」。しかし本当に自分なんて探せるのでしょうか?(写真:KiRi / PIXTA)
スマートフォンが普及した現代社会は「常時接続」が当たり前。「ちょっとでも時間があるとSNSを見てしまう」「気づいたらぼんやり動画を眺めている」「人の話を聞きながらでも、ついスマホをいじっている」……、そんな行動に思い当たる人も多いのでは。
スマホが日常を支配する現代において、私たちが失いつつある「孤独」の価値を見つめ直し、情報過多の時代をどう生きるべきか。哲学者・谷川嘉浩氏による新著『増補改訂版 スマホ時代の哲学 「常時接続の世界」で失われた孤独をめぐる冒険』から一部を抜粋、再編集して考察します。

スティーヴ・ジョブズの助言は当てにならない

フレキシブルであることが要求される状況下で、人は悩みを抱えたとき、どんな対策をとるでしょうか。仕事や人間関係で行き詰まったとき、自分や身の回りの人がどうするかを思い浮かべればすぐにわかると思います。

社会学者の牧野智和さんによると、自分をめぐってトラブルや悩みを抱えたとき、「自分以外の何者にも頼らずに解決しようとする志向が強ま」り、「外部から保護され、汚染・抑圧・変形させられていない、無垢な『本当の自分』が隠されているのではないかといった、内的世界の探求の過熱」が現代において生じています。

そう、答えは自己啓発です。自己啓発が急増するのです。私たちは自分の内面に確定的な答えがあると信じ、自分自身に熱中し始める。「自分探しが止まらない」とでも言いたくなるような事態がここにはあります。

ビジネス書や一般書の相当数が、この意味での「自己啓発」的な側面を持っています。悩みや困難を抱えている人が自己啓発に飛びつくと、自分自身とだけ向き合い、内面に撤退する自己完結的なアプローチをとりがちになります。

「自分の直感に従って判断しろ」「自分がどう感じたかを尊重しなさい」「自分の情熱に従え」というメッセージに心揺さぶられるものを感じたとすれば、それは、まさにこうした文化の中を生きていることの証です。

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