ウクライナは「信頼できないエネルギー経由国」「NATO加盟を歓迎しない国」 実はロシアに味方していたドイツ歴代政権の「地政学的悪夢」

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

非軍事的な戦争手段も様変わりした。アメリカなどの対ロシア金融制裁は、ロシアを主要な国際決済システムから切り離し、ロシアの中央銀行を孤立させた。

サウジアラビアがヨム・キプール戦争に際してイスラエルの同盟国への原油販売を禁止したように、ロシアもウクライナ支援国への天然ガス供給を停止することが予想されたが、2022年にエネルギー純輸入諸国が世界の主要エネルギー輸出国に科したような制裁は過去に例がなかった。

2022年9月に起こったノルドストリーム1&2のパイプライン破壊行為は、もう一つの起点と言える。当初憶測が流れたように、この爆発がロシアのインフラにたいするロシアの攻撃であったとすれば、その意図はあまりにもニヒリスティックであり、プーチンがロシアの力を誇示するためにロシアの国益概念を放棄したことになってしまう。

他方、仮にもバイデン政権がパイプラインの破壊を許可したとか、引き起こしたというのであれば、それはヨーロッパのNATO同盟諸国をロシアから引き離す戦略を強引に推し進めようとするアメリカの新たな意思を示すものと言えた。

したがって、ドイツにとって、ノルドストリーム1の爆発は、資本と技術をロシアの資源と交換することで自国の対外的なエネルギー依存を管理し、問題の貿易インフラをアメリカの非難から守ろうとしたスエズ危機以後の時代が象徴的なかたちで屈辱的な最終結末を迎えたことを意味した。

2022年に時代の変化を示す分岐点があるとすれば、建設当時は大西洋の向こう側からほとんど批判されなかったパイプラインが物理的に破壊されたこの瞬間が、おそらくそれであろう。

破壊的な力を持つエネルギー戦争

ノルドストリームの爆発は、ロシアの侵攻という点からみれば、血こそ流れなかったものの破壊的な力を持つエネルギー戦争の一部であった 〔訳注 その後、ノルドストリーム爆破事件はウクライナ側の犯行によるものとの報道がなされている『ニューヨーク・タイムズ』紙の2023年3月7日付記事(Intelligence Suggests Pro-Ukrainian Group Sabotaged Pipelines, U.S. Officials Say)を含む欧米の主要メディアは、ノルドストリームの爆破が「親ウクライナグループの犯行」によるものであると報じた。

また、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の2024年8月14日付スクープ記事(A Drunken Evening, a Rented Yacht: The Real Story of the Nord Stream Pipeline Sabotage)は、ノルドストリーム爆破は、民間実業家が資金を出し、ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官(当時、現在は駐イギリス大使)が作戦を指揮したと報じている。ゼレンスキー大統領は、一度は計画を承認したものの、CIAに計画が露見し、アメリカから作戦中止要請を受けて承認を撤回したものの、間に合わなかったとされる〕。

この時点で、ヨーロッパ各国政府は、エネルギー供給が制限された状況のもとで物質的になしうることと政治的に求められることとが一瞬にしてぶつかることに気づいたのである。

侵攻から12日後〔訳注 2022年3月8日〕、欧州委員会は、ロシア産天然ガスへの依存度を年内に3分の2まで引き下げ、「2030年までには」ロシアとの化石燃料エネルギー貿易をすべて終了させるという提案を発表した。

しかしながら、EUは翌4月までロシアのエネルギー輸出(石炭を除く)にたいしていかなる制裁措置も科さなかった。戦争が始まって最初の数カ月間、ドイツはノルドストリーム1を含むパイプラインを通じてロシア産天然ガスの供給を受けつづけた。

次ページハンガリー政府は拒否権こそ行使しなかったものの
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事