ウクライナは「信頼できないエネルギー経由国」「NATO加盟を歓迎しない国」 実はロシアに味方していたドイツ歴代政権の「地政学的悪夢」

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2022年6月、ドイツなど一部ヨーロッパ諸国へのバルト海経由の天然ガス供給量を徹底的に削減し、当面の天然ガス戦争で最初に大きな動きをみせたのは、ガスプロムであった。同社はその時点では、高い収益をあげていたが、その後は赤字に転落する。この非常事態において、短期的な対抗策として唯一可能であったのは、エネルギー消費量を削減することであった。

しかし、EUは2022年7月、今後9カ月間で天然ガス使用量を15%削減することを決定した際、ドイツの脆弱性が他のすべてのEU加盟国と同じではないという事実をほとんど考慮しないまま、EU共同で犠牲を払うことに合意した。

ハンガリー政府はこの共同計画に拒否権こそ行使しなかったものの、その後すぐにガスプロムと新たな供給契約を結ぶ交渉に入った。その一方で、ヴィクトール・オルバンは欧州委員会にたいし、備蓄が十分な国からそうでない国へ天然ガスを再分配することは容認できないと述べた。

一変したヨーロッパの地政学的風景

ロシア以外から海上輸送で天然ガスの供給を受けることが急務となったことで、ヨーロッパの地政学的風景は一変した。

シベリアから西方へ、ヨーロッパ向けに天然ガスが供給されないなか、大西洋に面したLNG輸入港を持つ国々(イギリス、フランス、スペイン、ポルトガル)は、東の隣国諸国に再輸出を行う国となった。

イベリア半島に到着した天然ガスは、そこでまた新たなパイプライン問題を引き起こし、ヨーロッパ大陸の中期的なエネルギーの未来をめぐって深刻な立場の隔たりが表面化した。ドイツ、スペイン、ポルトガルは、フランスの反対を押して、ピレネー山脈経由で天然ガスを供給する以前のプロジェクトの復活を提唱した。

こうした圧力がかかるなか、エマニュエル・マクロンは2022年10月、バルセロナ・マルセイユ間に天然ガスと水素を輸送する代替的な海底パイプライン計画を推進することに同意した。

しかし、フランス、スペイン両政府は、天然ガスが含まれるとEUの資金援助が受けられなくなることから、すぐにプロジェクトから天然ガスを除外した。

より差し迫った問題として、アルジェリアからの新たな供給は地政学的緊張をもたらした。2020年にアメリカが西サハラにたいするモロッコの主権を承認すると、アルジェリアとモロッコの国交が断絶した。

2021年11月、アルジェリアはモロッコ領内を通るパイプラインを通じてスペインに天然ガスを送ることを停止していた。ロシアの侵攻から1カ月後、スペインがモロッコ側につくと、アルジェリアは海底パイプラインを通じたスペインへの天然ガス輸送を停止した。

対照的に、イタリア政府はロシアからの天然ガス供給の代替として、アルジェリアからの供給を優先させることに成功した。

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