トランプの「エネルギー支配外交」を支える思考法 アメリカ社会を分断した「世界の政治経済構造」

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トランプ大統領は、前任のバイデンとは異なり、グリーンエネルギーを軽視し、国内の化石燃料の生産を増やそうとしています。その背景には何があるのでしょうか(写真:makoto.h/PIXTA)
2016年のブレグジット、2022年のロシアによるウクライナ侵攻、さらにはトランプの2度にわたる大統領選勝利の原因は、実は同じものではないだろうか。「エネルギー、グローバル金融、民主主義」という3つの歴史から、政治経済構造の亀裂を分析した新刊『秩序崩壊 21世紀という困難な時代』(ヘレン・トンプソン著)が、このほど上梓された。同書に寄せられた中野剛志氏による日本語版解説を一部編集のうえ、お届けする。

トランプ大統領を生み出した「秩序崩壊」

『秩序崩壊 21世紀という困難な時代』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら

2024年のアメリカ大統領選において、ドナルド・トランプが再び勝利した。

そうでなくとも、世界はすでに、本書の原題の通り、「Disorder(無秩序)」へと向かっていたが、トランプ大統領の登場が、それを決定的なものとするだろうと予感しない者はいない。

トランプの勝利については、それがアメリカ社会の分断によるものであるとか、ポピュリズムの台頭によるものであるといった解説がよくなされている。

もちろん、その通りであろうが、それは現象の表面だけをなぞった解釈に過ぎない。

探るべきは、トランプ大統領を2度も生み出すほどにアメリカ社会を分断した、世界の政治経済的構造である。トランプ政権のアメリカが世界に混乱をもたらす前に、世界の混乱がトランプ大統領をもたらしたのである。

前回、トランプが大統領選に勝利した2016年の時も、それに前後して、この世界の混乱をどう解釈するかについて、膨大な数の研究書が著されてきた。その中でも、高い評価に値する分析は、圧倒的に、政治経済学(political economy)という分野の研究者によるものが多かったように思う。

というのも、この世界の混迷は、国際政治と経済との関係、あるいは民主政治と経済との関係など、複合的な要因が複雑に絡み合って生じたものだからである。そうした複合的な因果関係を解きほぐすには、政治経済学という総合的な社会科学が最も適している。そうした政治経済学の中でも、歴史学的なアプローチを重視するものが、特に優れている。なぜなら、今日の混乱の種は、過去に蒔かれているからである。

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