「米国一極支配」と「リベラルな国際秩序」は幻だった エネルギーを基軸に組み立てられた政治経済学で読み解く

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危機の連鎖 パンデミック
21世紀に入ってからの危機の連鎖、「複合危機」に内在する問題への解決策はいまだ見つかっていない(写真:sogane/PIXTA)
2016年のブレグジット、2022年のロシアによるウクライナ侵攻、さらにはトランプの2度にわたる大統領選勝利の原因は、実は同じものではないだろうか。「エネルギー、グローバル金融、民主主義」という3つの歴史から、政治経済構造の亀裂を分析した新刊『秩序崩壊 21世紀という困難な時代』(ヘレン・トンプソン著)が、このほど上梓された。同書に寄せられた訳者の寺下滝郎氏による「あとがき」を転載する。

西洋近代は「文明の死」に向かうのか

本書『秩序崩壊 21世紀という困難な時代(原題Disorder: Hard Times in the 21st Century)』は、ケンブリッジ大学で政治経済学を講義するヘレン・トンプソン(Helen Thompson)教授の最新作である。

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著者には本書のほか、国際経済を分析の中心に据えて民主主義の成功と失敗について考察した『Might, Right, Prosperity and Consent: Representative Democracy and the International Economy 1919─2001(力、権利、繁栄、同意─代議制民主主義と国際経済 1919─2001)』(2008年、未邦訳)がある。

本書の副題にある「困難な時代」は、1854年に週刊誌に連載されたチャールズ・ディケンズの小説『ハード・タイムズ(原題Hard Times: For These Times)』から採られたものである。

19世紀中頃のイギリスで広まった事実偏重主義の教育・社会を批判したこの作品は、ロンドンのはるか北にある架空の工場町コークタウンが舞台である。そこには産業革命期の過酷な状況下に置かれた工場労働者たちの姿が描かれている。

著者はディケンズのこの小説を「石炭を動力源とする産業文明を批判した作品」と捉え、「化石燃料エネルギーが生み出した世界が生態学的、心理学的な負担を増大させるなか、『ハード・タイムズ』は文明の死にたいする予言的警告として立ちはだかる」と評している(Engelsberg Ideas, April 14, 2022)。

それを「文明の死」と呼ぶにせよ、オスヴァルト・シュペングラーの顰(ひそみ)にならって「西洋の没落」と呼ぶにせよ、21世紀に入ってこの方、西洋文明(米英をはじめとする西側諸国)が凋落の途上にあることは否定しがたい事実である。

「21世紀という困難な時代」とは、国際秩序の形成に大きく関与してきたWEST(西洋、西欧、西側)を待ち受ける時代のことであると考えてよいであろう。したがって、本書の分析対象も、アメリカと西ヨーロッパ諸国が中心である。ロシア、中国、トルコ、サウジアラビアなどへの論及もあるが、それらはあくまでも西側との関係においてである。

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