「米国一極支配」と「リベラルな国際秩序」は幻だった エネルギーを基軸に組み立てられた政治経済学で読み解く

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第Ⅱ部「経済」では、ブレトンウッズ体制の終焉、ユーロダラー市場、為替相場メカニズム(ERM)、単一通貨ユーロ、中国の経済的台頭、ユーロ危機、一連の量的緩和(QE)、「一帯一路」とヨーロッパ諸国の分裂などについて説明する。

「ここはもうカンザスじゃない」

第4章の表題「ドルはわれわれの通貨だが、それはあなた方の問題だ」は、「アメリカがインフレを輸出している」というヨーロッパ諸国からの批判を受け、当時リチャード・ニクソン政権の財務長官であったジョン・コナリーが言い返した言葉である。

ニクソンが1971年にブレトンウッズ体制からの離脱を表明後、2度のオイルショックの余波を受け、ユーロダラー市場を通じたドル取引が爆発的に増加した。かくして、ドルは事実上の国際基軸通貨となり、アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)はその流動性手段を通じて「最後の貸し手」としての地位を飛躍的に高めた。

アメリカ主導の金融システムが安定した時期を、後にFRB議長となるバーナンキが2004年に「大いなる安定」と呼んだが、それは構造的な脆弱性をはらんでいた。中国によるドル消費は、アメリカによる中国製品の消費に匹敵し、中国の継続的な成長と原油価格の恒常的な安値への期待に支えられていた。

08年に原油価格が急騰した際、FRBは利上げで対応したが、結果的にアメリカ国内のサブプライム住宅ローン市場の崩壊を加速させ、07年から08年にかけての世界金融危機を助長することとなった。

金融危機後の金融秩序はFRBのゼロ金利政策によって維持され、アメリカのシェールブームによって安価なエネルギーが供給された。FRB金利のわずかな動きが世界経済に影響を与え、アメリカの中央銀行を予期せぬ高みへと押し上げ、「FRBがつくり上げた世界」として新たな世界秩序が構築されたのである。

FRBの行動は「地政学的に緊張感のある金融・通貨のヒエラルヒーを生み出し」、「3つのQEプログラムと7年におよぶゼロ金利政策によって、通貨・金融環境はそれ以前の状況から一層かけ離れたものとなった」。

まさに「ここはもうカンザスじゃない」(第6章の表題)である。これは『オズの魔法使い』に出てくる言葉で、カンザス州の農場に暮らしていた主人公の少女ドロシーが飼い犬トトとともに竜巻に巻き込まれ、家ごと「オズの国」に吹き飛ばされてしまったときに発したセリフである。

「カンザス」とは住み慣れた土地や環境のことであり、このセリフは自分たちが突如として慣れない環境や状況に置かれたことへの戸惑いを表している。

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