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ノーベル賞・坂口氏の研究を支えた阪大&中外製薬の連携。文科省の支援終了後の臨床応用研究を中外が支援

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ノーベル生理学・医学賞の受賞決定から一夜明け、10月7日に記者会見する大阪大学の坂口志文特任教授(写真:時事)

2025年にノーベル生理学・医学賞を受賞したのは、大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)の坂口志文氏らだ。1995年に坂口氏らが発見した「制御性T細胞(Tレグ)」は、次世代医療のプラットフォームとして限りない可能性を秘めている。

外敵から生体を守る免疫は、過剰になると自分自身を攻撃してしまうことがある。そのバランスを保つのがTレグで、免疫にブレーキをかけて体内の調和を維持している。坂口氏は、マウスにおいてリンパ球(T細胞)の一部がほかの免疫応答を抑制する能力を持つことを示し、免疫反応を制御するTレグの存在を明らかにした。その詳細は、その詳細は、坂口氏と筆者との共著『制御性T細胞とはなにか』を参照されたい。

このTレグを活用した医学研究や治療法開発は、自己免疫疾患、がん、移植医療、アレルギー疾患、感染症、神経変性疾患から、肥満・メタボリックシンドロームまで、すでに幅広い分野で進展している。

坂口氏の基礎研究がこうして実用化に向けた研究に結びついている背景には、IFReCと中外製薬による「産学連携」が奏功したことも大きい。

免疫学は日本の「お家芸」

坂口氏の専門とする免疫学は、源流をたどれば明治期にまでさかのぼる日本科学の「お家芸」だ。免疫学の原点は、感染症がいかにして生体を侵すか、それをどう防ぐかを科学的に探る研究にある。ドイツへ留学した北里柴三郎は破傷風菌の純粋培養や血清療法の開発でノーベル賞級の成果を挙げた。

戦後になると、日本でも抗生物質の普及と衛生環境の改善により感染症対策の必要性は急速に減少し、免疫学は基礎研究へと軸足を移した。

その流れの中、世界を牽引する成果が次々と生まれていく。1970年代、利根川進は免疫系が多様性を生み出す仕組みを突き止め、1987年にノーベル生理学・医学賞を受賞。この発見により、免疫学は分子レベルで設計図を読み解く科学となった。

大阪大学総長をともに務めた岸本忠三氏と平野俊夫氏も免疫基礎研究の功労者で、1986年に免疫応答や炎症反応の原因となるタンパク質、インターロイキン-6(IL-6)を発見した。中外製薬は、2005年にこのIL-6が受容体に結合するのを阻害する「アクテムラ」を製品化し、関節リウマチなどの治療薬として世界で使用されている。

1992年、京都大学の本庶佑氏は、免疫のブレーキとして働く「PD-1」分子を発見した。PD-1の働きを抑える抗体はがん免疫療法に応用され、2014年に小野薬品工業がオプジーボを発売した。成果は2018年のノーベル生理学・医学賞受賞につながった。日本の免疫学の基礎研究が臨床応用へとつながる時代を迎え、産業化や国際的な影響力にも寄与することになった。

そして坂口氏が発見したTレグは、その臨床応用の可能性を大きく切り開くものといえる。

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