「米国一極支配」と「リベラルな国際秩序」は幻だった エネルギーを基軸に組み立てられた政治経済学で読み解く

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本書の結論では、2010年代に混乱が生じた原因の多くが1970年代に起因することを改めて指摘し、エネルギー、金融、政治の相関的な動きを歴史的にたどっている。

後半部では、気候変動問題を背景として唱えられてきたエネルギー革命、グリーンエネルギーの問題が論じられる。

欧米でエネルギー転換をめざす政治家や投資家たちは、「まだ発明されていない技術を活用すれば、現在の物質的条件の多くを従来とは異なるエネルギー源で再現できるはずだ」と主張する。

しかしながら、脱炭素化を軸とする「エネルギー革命」なるものは、「レアアース(希土類)のような潜在的に希少な物質だけでなく、それが取って代わろうとしている化石燃料エネルギーの投入にすっかり頼りきっている」のが現実である。

「神々の黄昏」と民主主義の終焉

著者はまた、「技術による救済という観念と、逃れがたき『神々の黄昏』とのあいだを右往左往しながら駆け足で先を急ごうとするのは、絶望的な対応というほかない」と述べる。ここにいう「神々の黄昏」とは、化石燃料エネルギーの枯渇、ひいては人類社会の終焉の謂であろう。

1967年6月に第三次中東戦争(六日戦争)が勃発したとき、産油国は増産によってこれに対処した。その結果、石油の供給不安がなくなり、むしろ過剰供給が問題となる状況が生じた。

当時、イギリス石炭委員会の経済顧問であったE・F・シューマッハーは石油の有限性を説き、「燃料の神々の黄昏は、遠い将来のことではない」と述べて、中東産原油への依存に警鐘を鳴らした(ダニエル・ヤーギン『石油の世紀─支配者たちの興亡』下巻214~217頁)。

トンプソン教授は、「生物圏もエネルギーの利用もともに限界があるが、人類はそれに立ち向かわなくてはならない」とし、「気候変動とエネルギー消費をめぐって起こりうる争いが民主主義体制を不安定化させるなか、そうした限界のなかでいかにして民主主義体制を維持するかが、今後10年間の中心的な政治課題となる」とみている。

「2022年以後──戦争」は、ペーパーバック版で追加された章である。ハードカバー版が出版された日に起こったウクライナ・ロシア戦争以後まで分析の範囲を広げている。著者はこの戦争の軍事的展開を追うのではなく、エネルギー地政学的な影響分析に重点を置いている。

留意すべきは、ウクライナ・ロシア戦争はヨーロッパにエネルギー問題を引き起こした原因なのではなく、むしろこの戦争によって「エネルギー貿易の流れの地理的パターンが崩れはじめる前からすでに存在していた供給面の制約が〔中略〕顕在化した」にすぎないという認識である。

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