「米国一極支配」と「リベラルな国際秩序」は幻だった エネルギーを基軸に組み立てられた政治経済学で読み解く
本書は3つのパートからなっており、以下、順を追って概要を説明する。
「アメリカ」対「EU・中国連合」へ
第I部「地政学」では、エネルギー(原油・天然ガス)が大西洋を挟んだ米欧の同盟関係の形成にいかなる影響を与えたのか、それと同時にアメリカとそのヨーロッパのパートナー諸国とのあいだの相反する利害関係がいかにして生まれてきたのかについて考察する。
第二次世界大戦前の中東産原油をめぐる争奪戦を経て、戦後アメリカはヨーロッパ諸国による中東油田へのアクセスを保証した。
エネルギー問題専門家のダニエル・ヤーギンはこの契約を「戦後の石油秩序」と呼んでいるが、その秩序たるや、かなり心もとないものであった。
アメリカはペルシャ湾に軍事的プレゼンスを持たない代わりに、イギリス帝国やイラン国王レザー・シャー・パフラヴィーといったひ弱な代理人に頼っていた。こうした秩序は基本的に不安定を免れず、「重大な地政学的危機が勃発し、その影響は後々まで尾を引くこととなる」。
1956年のスエズ危機や73年と79〜80年のオイルショックなどの混乱を経て、ヨーロッパの指導者たちはアメリカにエネルギー供給の保証を期待することなどできないと痛感する。
かくして1960年代から90年代にかけて、ヨーロッパ諸国はエネルギー安全保障の観点から、ソ連(後にロシア)からのエネルギー輸入に傾斜していき、2000年代にはその依存度は一層強まる。しかしながら、「ロシアのエネルギーは、トルコをめぐるEUとNATOの亀裂をいたずらに悪化させ」、ウクライナの問題とも結びついていく。
2000年代後半、アメリカではシェール革命(シェールオイル・シェールガスブーム)が起こり、国内の石油・天然ガス生産量は飛躍的に増加した。オバマ政権はシェールブームを追い風に中東からの戦略的撤退を模索していたが、挫折する。サウジアラビアによるイエメン軍事介入への後方支援を余儀なくされたからである。
アメリカとロシアがヨーロッパのエネルギー市場へのアクセスをめぐって直接競合する一方、エネルギー大国として復活したアメリカと世界最大のエネルギー輸入国である中国とのあいだの軋轢も激しくなる。
「気候変動の地政学はいまや、米中対立とそのヨーロッパへの影響とも絡み合っている」と著者は指摘する。「化石燃料を大量に輸入するEUと加盟各国が、世界最大の石油・天然ガス生産国であるアメリカよりも世界最大の炭素排出国である中国を気候問題でパートナーとみなすなら、環境問題への野心は米欧のエネルギー関係をさらに不安定にする可能性が高い」。
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