ウクライナは「信頼できないエネルギー経由国」「NATO加盟を歓迎しない国」 実はロシアに味方していたドイツ歴代政権の「地政学的悪夢」

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スエズ危機で露呈したNATO内の権力的ヒエラルヒーも〔訳注 スエズ危機に際して英仏はアメリカの圧力に屈して撤退を余儀なくされた〕、ヨーロッパにとっては地政学的悪夢でありつづけている。

ロシアによる侵攻の瞬間から、ヨーロッパ諸国の対応の方向性を決めたのはワシントンの反応であった。当初はウクライナの前途を悲観視していたバイデン政権であったが、ロシアが航空優勢(air superiority)の確立に失敗したことから、その見方を修正したようである。

2022年3月下旬から、ロシアに戦略的打撃を加えるチャンスと判断したアメリカは、ウクライナへのより大規模な武器移転と経済援助を命じた。

このアメリカの動きは、特にドイツに強い衝撃を与えた。戦争はすぐに終わるとワシントンが想定していた段階でウクライナへの武器支援を決定したショルツは、戦争が長期化すると、さらなる支援の実施を繰り返し求められたが、キーウの戦争目的に影響を与えることはできなかった。

トルコの権利を守ることがロシアの重大関心事

もしアメリカ政府がクリミアにたいする完全な主権を求めて戦うウクライナを今後も支援しようとするのであれば、1780年代からほぼ継続的にロシア黒海艦隊の寄港地となってきたセヴァストポリ港をロシアが保持しつづけるかどうかが鍵となる。

より一般的には、1936年のモントルー条約以来、黒海の航行権に関しては現状維持が続いている。この条約は、戦争中にダーダネルス海峡とボスポラス海峡へのアクセスを管理し、いかなる状況が戦争状態にあたるかを決定する唯一の権利をトルコに与えている。

この長年続いてきた国際法は、第2章で説明したとおり、トルコがNATOに加盟した理由でもあるが、中東におけるロシアの動きを制約する一方で、第2次世界大戦や冷戦期に明らかになったように、ロシアを南方からの海上攻撃から守る役割を果たしている。

いまや、ウクライナの長期的な防衛を制約することによって、モントルー条約を守ること、とりわけ、いかなる状況が戦争状態にあたるかを決定するトルコの権利を守ることが、ロシアの重大な関心事となっている。

(訳:寺下滝郎)

ヘレン・トンプソン ケンブリッジ大学政治・国際関係学部政治経済学教授

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Helen Thompson

EUの将来、石油を含むエネルギー問題、イギリス政治、アメリカ大統領選挙、イスラエル・ガザ紛争、ウクライナ・ロシア戦争、中国の地政学的影響など、さまざまなトピックについて、『ニューヨーク・タイムズ』『フィナンシャル・タイムズ』『ガーディアン』などの新聞、『フォーリン・アフェアーズ』などの雑誌に寄稿している。主な著作に、2008年にマンチェスター大学出版局から出版された『Might, Right, Prosperity and Consent: Representative Democracy and the International Economy 1919-2001』(「力、権利、繁栄、同意――代議制民主主義と国際経済1919~2001年」未邦訳)がある。同書は、民主主義国における国家の権威の問題について、権威というものを主に国内政治や規範的価値観の問題として扱う多くの民主主義論とは異なり、国際経済を中心に据えた独創的な分析を行っている。

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