ドイツに関して言えば、ロシアとのエネルギー貿易上、ベルリンは国家主権を求めるウクライナの闘争に長期にわたって巻き込まれてきた。
2005年以来、ドイツの歴代政権は、ロシアとウクライナの紛争が引き起こすエネルギー安全保障の問題から逃れるためにかなりの政治的資本を投入してきた。
加えて、ウクライナを「信頼できないエネルギー経由国」あるいは「NATO加盟を歓迎しない国」として扱うことで、ロシアに味方していたのである。
しかし2009年以降、ウクライナをEUの準加盟国とすることを餌に、同国のパイプラインを近代化させようとしたが、ほとんど無駄骨に終わった。
クリミア危機とドンバス戦争が始まった後、ドイツが直面した問題は、ウクライナの独立維持よりも自国のエネルギー安全保障を優先したせいでワシントンの反感を買う一方、ミンスク2〔訳注 ドンバス戦争の停戦を目的とした合意。2015年2月11日、ウクライナ、ロシア、フランス、ドイツの首脳による夜を徹した交渉が行われ、ドンバス地方の自治権拡大などで合意〕の交渉に長時間を費やしながら、ロシアとウクライナの関係を調停できなかったことであった。
2021年5月、バイデンがノルドストリーム2へのアメリカの制裁を解除したとき、アンゲラ・メルケルは、ドイツのエネルギー安全保障に関してドイツ自身が決定する権利を主張し、それを押し通したかのように思われた。
しかし、その4カ月後、ウクライナ国境でロシア軍の本格的な増強が始まると、バイデンは、2021年9月の総選挙後に次期首相となる見通しのショルツから、もしロシアの侵攻があればノルドストリーム2を停止するという言質を取ることができた。
その直後、ドイツのエネルギー規制当局は、このプロジェクトの認定手続きを一時的に停止した。ショルツが侵攻前に行ったノルドストリーム2の死の儀式は、新しいヨーロッパのためではなく、ロシアがさらに侵攻を続けるか、ウクライナが2014年に失った領土の奪還を試みるかのいずれかの可能性がかなり濃厚となった世界において、バルト海海底を通る第2のパイプラインがいつ頓挫してもおかしくないなかで建設されたという現実を物語っていた。
「時代の転換期」の物語
しかし、1991年以降のヨーロッパの秩序において明らかとなったウクライナをめぐる断層がいかなるものであれ、「時代の転換期」の物語には何かしら琴線に触れるものがある。
膨張主義的な戦争は必然的に深刻な断絶を生むが、この戦争も例外ではなかった。自国の独立を守ろうとしている国に世界を支配する大国が多額の軍事援助をすでに行っているところへ、核兵器を保有する国が国境を越えて隣国の領土を征服するという図式であった。
その結果、紛争は日ごとにエスカレートし、より大きな戦争に発展する危険性をはらんでいた。
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