土壌のセシウム汚染が強いほどがんが増える?--トンデル博士が語るチェルノブイリ事故の事例
東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う放射性物質の拡散が、人体にどのような影響を及ぼしうるのか--。専門家の間でもさまざまな意見が飛び交い、明快な結論が出ていない疑問である。
これに対して、福島原発と同じ「レベル7」の重大事故となったチェルノブイリ原発事故に関連して、人体への影響を研究したスウェーデン・ヨーテボリ(イェーテボリ)大学のマーチン・トンデル博士(写真)が1月末に来日。福島市内で行った講演(主催:NPO法人エコロジー・アーキスケープ、国際環境NGO FoE Japan)の中で、興味深い研究結果を紹介した。
講演は、京都大学原子炉実験所の今中哲二助教が解説・通訳を務める中、トンデル博士が2004年に発表した「北スウェーデンでのがん発生率増加はチェルノブイリ事故が原因か?(Increase of regional total cancer incidence in north Sweden due to the Chernobyl accident?)」と題する研究結果を基に行われた。
トンデル博士は、1986年のチェルノブイリ原発事故の後、スウェーデンに飛散した放射性物質の影響を調査。「土壌のセシウム沈着量が多い地域に住む人ほど、汚染のない地域に住む人に比べ、がんの発生率が高まる」という結論に至ったという。
当時、トンデル博士はスウェーデンの21州のうち7州を選び、そこに住む0~60歳の約114万人を対象に、88~96年の9年間に及ぶ追跡調査を行った。
トンデル博士は、セシウム137の土壌沈着量に応じて対象地域を6つにグループ分けした。汚染度が1平方メートル当たり3000ベクレル以下の地域を「汚染のない地域」と見なし、そのグループを基準として、汚染度が高くなるにつれ、がんの発生率がどう変化するかを調査した。
このようにして「汚染のない地域」と比較した場合の、相対的ながん発生リスクを調べた結果、汚染度が高くなるにつれて、がん発生のリスクがしだいに大きくなる傾向が認められた。そして、1平方メートル当たり10万ベクレルのセシウム137の汚染があった場合、汚染がない場合と比べてがんの発生率が11%高まることが、統計学的に明らかになったという。