そして、自分も他人も将来の他人も自分たちにとっての価値が何かわかっていない。そうなると頼りになるのは、AIか世間の評判や相場観であり、それらを体現した現在の「価格」である。
多様化という名前の他者との分断、あらゆる意味での共同体の崩壊、不確実性の増大、将来の不透明性の深刻化、これらによって、頼れるものは、自分のこともわからない人々の烏合の衆、群集の意思決定は、現在の目に見える「価格」にならざるをえない。
これは、バブル期やバブル崩壊期に起きることでもある。値上がりするものが勝者、価値のあるモノ、というのがバブル期の判断基準であり、バブル崩壊したときには、リスクが低いものを求める。
LTCM破綻は「人々が市場価格でリスク価値を判断」
だが、「何がリスクがあるものなのか」がわからないから、バブル崩壊の中で、値下がりが小さいもの、むしろ値上がりしているもの、それらが価値のあるものだと判断して、それらに逃避資金が集まる。これが、1998年のロシア危機、ブラジル危機の中で、LTCM(ロングタームキャピタルマネジメント)というノーベル賞経済学者とカリスマトレーダーが作った「アービトラージ(サヤ取り)ファンド」が破綻した1つの理由であった。
リスクとリターンプロファイルが実質的に同一の証券で価格差があるものをスーパーコンピューターと独自のプログラムで見つけ、素早くアービトラージをかけ安いものを買い、高いものを売ってサヤ抜きをしていたが、市場危機で混乱したそのほかの投資家は、真のリスクリターンプロファイルが見抜けず、市場で付いている価格が正しいと思い、高いものはその分リスクが低く質が高いと思い込み、高いものに殺到した。
市場価格でリスクの価値を判断したのである。それは価値から言えば間違っていたが、価格は高いものがどんどん高くなっていき、アービトラージをしていたLTCMは破綻したのである。
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