長らく教育は幸福につながると考えられてきました。実際に発展途上国では識字率の上昇とともに平均寿命が延長し、個人の単位でも教育によって未来の選択肢は増えます。しかし一方で、教育には負の側面もあると人口学者のポール・モーランド氏は指摘します。本稿では、教育が十分すぎるほど普及した先進国で生じている弊害について解説します。
※本稿はポール・モーランド氏の新著『人口は未来を語る』から一部抜粋・再構成したものです。
教育は幸福につながるか
教育の価値については、基本的には異論の余地がない。教育は個人の視野を広げるためにも、経済を発展させたり人口転換を進めたりする手段としても、明らかに望ましいものである。また教育の向上は平均寿命の延長とも無関係ではない。
発展途上国では、読み書きができれば自分と家族の健康をよりよく管理できるようになるため、教育の向上によって平均寿命が延びる。先進国では、学士号取得者のほうがそうでない人よりも死亡率が低いという事実がすでに明らかになっている。さらに、教育は民主主義が育ちうる状況を作り出すとも考えられる。
そのような状況は、人はたくさんいるが命がぞんざいに扱われ、ほとんどの人が政治プロセスに参加しない体制よりも好ましいはずである。また教育は開発を促進する。ある意味では教育そのものが開発である。1人あたりGDP、平均寿命とともに、教育は、国連が人々の幸福を測る指標である「人間開発指数」を算出するのに用いている3つの指数のひとつに入っている。
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