最近ではもっと興味深い指摘も出ている。ジャーナリストのデイヴィッド・グッドハートと経済学者のディートリック・ヴォルラスがそれぞれ別に指摘したもので、最先進諸国はすでに「教育のピーク」に達したかもしれないというのである。経済学的に言えば、人口の半分が大学に進学するようになった時点で、人的資本への投資利益率は低くなっているという。
実際、ほとんどの先進国で学位取得者の収入の優位性が低下してきている。これについてグッドハートは、職場で何を評価し、何に報酬を与えるかを再検討するべきだと述べ、ヴォルラスのほうは、教育のこの状況こそが近年の経済成長鈍化の一因だと述べている。
人類全体の教育過剰はまだまだ先の話
先進国はどちらの指摘にも耳を傾けるべきだが、人類全体が教育のピークの問題に直面するのはまだ先の話である。アフリカ中部のチャドなどでは今もなお大多数の人々が──若い世代でさえ──非識字者であり、このような状況が続くかぎり、過剰教育は先進国の問題でしかない。教育の道を歩みはじめたばかりという国は多く、またバングラデシュのように教育の進歩が目覚ましい国であっても、道のりはまだ長い。
韓国やバングラデシュの成功には注目するべきだが、逆に教育の進歩が見られない国々があることも事実であり、これは憂慮すべき問題である。前述のチャドはその例だが、ほかにもサハラ以南のアフリカの多くの国が類似の状況にある。またこの地域では識字率の男女差が世界のどこよりも大きい。
それでも高齢者の識字率が3分の1なのに対して若者は4分の3と、全体としてはいいほうに向かっているのだが、同時に人口爆発が起こっているために教育問題への対応が難しくなっている。
たとえば西アフリカの小国、赤道ギニアでは、人口に占める非識字者の割合は低下しているものの、人口増加があまりにも急なので非識字者の人数は増えていて、1990年代なかばから現在までにほぼ3倍に膨らんでいる。若年者人口が等比級数的に増えていくときに普通教育を施すのは容易なことではない。
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