全員「元会社員」ケーキ職人の平均年齢は75歳 1978年創業の味を守り続ける中目黒「ヨハン」
まだ慣れないのは、仕事が15時頃に終わること。「飲みに行くのも、家に帰るのも早すぎる」ため、本屋や図書館、映画館に寄りながら、どう時間を有効活用するか模索中だ。
仕事に共通点を感じる「元品質管理部長」
ヨハンのチーズケーキは、チーズ本来の味わいを生かしたナチュラル、まろやかな甘みとコクが持ち味のメロー、ブルーベリー、サワークリームが爽やかなサワーソフトの4種類。いわゆるホールの形をした丸型と、細長い長方形の角形(メロー以外)がある。これらのチーズケーキは店頭に並ぶほか、成城石井、クイーンズ伊勢丹の品川店、東武百貨店の池袋店に卸しており、丸型は1日に30個、角形は20個、多い時にはどちらも50個ほど作っている。

ヨハンでなによりも厳格に守られているのは、創業時からのレシピ。そのために、すべての作業は正確な計量から始まる。新人が最初に教わるのは、「団子」作り。団子とは、チーズケーキの底に使われるクッキー生地を作るために、小麦粉、生卵、バターを混ぜた素材を指す。水谷さんとほぼ同じタイミングでヨハンに加わった北原一さん(66歳)、増田秀昭さん(64歳)の3人が団子作りの担当だ。

「店に来ると、50、60個の卵を割るところから仕事が始まります。人生でこんなの初めてっていうぐらい卵を割っていますね」と話すのは、北原さん。大学を出た後に入社したイトーヨーカドーで、65歳まで働いた。最後は品質管理部長を務めている。北原さんは、テレビでヨハンの存在を知った。
「65歳の誕生日を迎える2カ月前、2023年の敬老の日に、たまたまヨハンが取り上げられたテレビ番組を観ました。退職した後、なにもしないで家でゴロゴロしている生活になって体を壊すのが怖かったので、もう少し調べてみようと検索したんです。それで東京新聞のウェブ記事を読んだら、『新しい「おじいちゃん」募集中』と書かれていました。ケーキを作ったことはなかったんですけど、もうデスクワークで働き続ける気はなかったから、それを見てすぐに電話しました」
趣味で子どもとよくキャンプに行き、「キャンプ飯」を作るのが好きだったから、キッチンに立つことに抵抗はない。実力勝負の職人に憧れ、そば職人を目指そうかと考えたこともあり、新聞にパティシエではなく、「ケーキ職人」と書かれていたことも気に入った。
高齢者が集うヨハンでは徒弟制度のような上下関係が厳しい職場を想像していたから、まるで違う雰囲気に驚いたという。
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