全員「元会社員」ケーキ職人の平均年齢は75歳 1978年創業の味を守り続ける中目黒「ヨハン」
ヨハンの歴史を語るうえで、住友ベークライトの話は欠かせない。創業者、故・和田利一郎さんは同社出身で、55歳で定年退職後(※当時の定年は55歳だった)、知人のアメリカ人女性からもらったチーズケーキのおいしさに感激し、起業を決意。その女性からレシピを習い、1978年2月、66歳の時にかつての同僚2人とともに店を開いた。
「なんでケーキなんだろう」
利一郎さんが亡くなった2008年以降、経営を担っていた妻、博子さんも2023年に他界。現在、3代目として経営にあたる長男の和田哲(さとる)さんは、こう振り返る。
「それまで背広を着てたお父さんが、なんでケーキなんだろうと思ったことをおぼえています。父がチーズケーキを作ろうと試行錯誤している時に、失敗作をたくさん食べました(笑)。店を開いた頃、目黒川沿いは土手で、周りになにもなかったんですよ。ほかに六本木とか候補地があったみたいだけど、おじいちゃん3人で細々とやるにはちょうどいいからと中目黒を選んだみたいです」
![ヨハン](https://tk.ismcdn.jp/mwimgs/0/3/570/img_0380aea726a2721e3e78f681f9a9da18311387.jpg)
利一郎さんが望むように「細々と」とは、いかなかった。保存料、着色料、香料、さらに水も使わず、オーストラリア産のフィラデルフィアチーズの豊かな風味を生かした手作りのチーズケーキは好評を得て、間もなく人手が足りなくなる。そこで頼ったのが、住友ベークライトの後輩たち。利一郎さんは次々と同社OBを招き入れ、ケーキ作りを教えた。当時からの流れをくむのが水谷さんだ。
「社内で、ヨハンはよく知られています。私も営業時代、お店に寄って手土産を買っていました。それまで家で料理もしたことがなかったんですけど、先輩たちが働いているところなので、安心感がありますね。覚えることが多くて大変ですが、化学メーカーだったので品質管理など通じるところもあります」
前職の最後の部署では「なんでも知っている長老」扱いだったのに、今は「なにも知らない若手」になって、その変化を楽しむ。
「客観的に自分を見ると、面白いですね」
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