一青:そうですよね。ただ、いろいろ本を読んでいると、犯罪に手を染めてしまうのは、幼少期に成育環境が恵まれていなかった人が多いように思います。
そうした人たちが一線を越えてしまわないようにするために、私たちに何かできることはあるでしょうか。
よくメディアでは、子どもたちが発しているSOSのサインや異変に気づくようにしましょう、などと言われますが、なかなかそうしたことができるように思えません。
出口さんは、困難な環境に置かれている子どもたちに対して、どのように向き合うことが大切だと思われますか。
出口:子どもにとって一番大切なのは、「この人は話して大丈夫だ」と思える人がいることです。自分にとって人として信じられる存在がいる子どもは、そうそうグレることはありません。
ところが、信頼できる人がいないと、自分が持っている問題性をその子の中で増幅してしまいます。そうやって次第に感情が歪んでいき、非行に走ってしまう。
だから「この人は信頼できるという存在を子どもに持たせることができるかどうか」、それが最も重要なポイントになるでしょう。
例えば、少年院に入っている子どもたちは、施設の先生のことを信じていて、心を安定させているように思います。少年院に入る前は、毎日やさぐれるようなことばっかり起きて、人を信じることはできないし、この人の言うことを聞けばいいという人がいない。
ところが、少年院の先生に出会って、「この人のことは信じてもいいんだ」「この人は、ちゃんと自分の話を聞いてくれるんだ」とわかった瞬間、ぐっと変わっていく子が多いんです。
少年院に行くのは、問題を起こした子どもたちのほんの数パーセントです。それ以外は、警察の対応で終わる、裁判で不処分になる、保護観察と言って、家にいながら指導を受けるというケースがほとんどで、非行少年の中でも悪中の悪と言われている子どもしか、少年院までいかないわけです。
ですが、その子たちがたった1年間教育を受けるだけで、8割が少年院に戻ってこなくなります。もちろん、教育システムも大事ですが、何より信頼できる大人に出会えたかどうかが重要で、少年院の先生の存在が子どもたちにとって劇的な変化をもたらすことにつながっていると思います。
誰しもが「少年A」になっても不思議ではない
一青:子どもが非行に走らないようにするためには、周りに信頼できる大人がいることが大切だということは理解できました。
一方、「少年A」(神戸連続児童殺傷事件の犯人)のように「サイコパス」と言われるような犯罪者は、脳のエラーが起きていると考えてよいのでしょうか。
『父と母 悔恨の手記 「少年A」 この子を生んで……』(文春文庫)を読んでも、特別おかしな家族から「少年A」が生まれた気はしなかったのです。では、なぜ猟奇的な部分が助長されることになっていったのかがわからなくて……。
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