「人はなぜ罪を犯すのか」一青窈が専門家に聞く 【前編】犯罪心理学者・出口保行さんを訪ねて

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出口:そこが一番難しくもあり、大事なポイントです。

犯罪者に関する本はたくさんありますが、多くの場合、そこに書いてあるのは、お父さん、お母さんはこういうことをやっていましたという教育態度の話です。基本的に、その家でやっていることはどこがおかしいんだろうと思う情報しか載っていないんですよ。

確かに、それは嘘ではない。ただ、「客観的な事実」はそうかもしれませんが、犯罪者や非行少年の分析をするときに最も重要なのは、「主観的な事実」のほうなんです。

例えば、お父さんは立派な仕事をしています。お母さんは本当によく子どもの面倒をみています。子どもが何かしたら、すぐに飛んでいきます。それって、客観的な事実として考えると、良い親だと思いますよね。ですが、子ども本人にしてみたら、「この親、嫌い」ということがたくさんあります。

本当に外面がいいだけで、自分の気持ちを考えてくれていない。子どもが何かミスをすると、親がバーっと走り込んで尻拭いをしてしまうから、大きな問題にならなかった。

世の中的にみれば、親が積極的に関わっているから「いい家庭ですね」となってしまうわけですが、子どもはそんなことをしてほしくなかった。そんなことをするんだったら、自分を叱ってほしいと思っちゃう。

そこから、どんどん親子の距離ができてしまう。親は良かれと思ってやっているわけですが、そんなケースは本当にたくさんあるように思います。

出口保行さん
出口保行さん(撮影:梅谷秀司)

一青:そうなると、誰しもが「少年A」になっても不思議ではないということでしょうか。

出口:どの子が犯罪者になるかなんて、誰にもわからないんですよ。子どもの主観的な事実がどうなのかということを、周りの親や先生がいつもおもんぱかってあげられているかどうかが大切なんです。

「良かれ」と思って一方通行になっているのが、一番まずいと思います。そうではなく、「今子どもはどう思っているのかな」「私のことをどう思っているんだろう」というふうに思えるだけでも、子どもにとっては大きな違いがあるんです。

子どもたちはサインを出している

一青:今はSNSも発達していて、誰かとコミュニケーションを取る手段が無数にありますよね。それでも、自分の気持ちを誰もわかってくれないと思って一線を越えてしまうのは、もはやどうすることもできないものなのでしょうか。

出口:いえ、そうとは言い切れません。

よく観察すると、子どもたちは「そういう方向に行くよ、行くよ」というサインを出し続けているものです。

ところが、先ほどの例のように、何でも「良かれ」と思ってやっている親だと、そのサインが自分に対して発されていることだと気づかないまま通り過ぎてしまう。それが続くと、あるとき、子どもはドカンと爆発してしまうからです。

ですが、多くの親はそのサインに気づくものではないでしょうか。「良かれ」だけではない親であるならば。

そもそも、初めから「犯罪者」という人間は存在していない。誰しもが一線を越えてしまう可能性がある。それでは、一見「ごく普通」と思える家庭から、なぜ犯罪者が生まれてしまうのか。
前編で一青さんは出口さんを通じてその背景に迫った。後編は、さらに踏み込んで、近年増加している「現代ならでは」の犯罪へと話題が移行していく。
【→→後編:一青窈が問う「闇バイトや無敵の人」犯罪の深層
川下 和彦 クリエイティブディレクター/習慣化エバンジェリスト

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かわした かずひこ / Kazuhiko Kawasita

2000年、慶應義塾大学大学院修士課程終了後、総合広告会社に入社。マーケティング、PR、広告制作など、多岐にわたるクリエイティブ業務を経験。2017年春より、新しい事業を創造し、成長させることを標榜するスタートアップ・スタジオに兼務出向。広告クリエイティブに留まらず、イノベーション創出に取り組んでいる。著書に『コネ持ち父さん コネなし父さん』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ざんねんな努力』(アスコム)などがある。(撮影:原貴彦)

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