中途採用「前職からのお土産」に潜む重大リスク 安易に「経験を活かして」と言ってはいけない
回転寿司チェーン店K社の元社長が、同業他社であるH社の取締役から退任する直前に、商品原価や仕入価格などの「営業秘密」をアクセス権限のある当時の部下に命じて入手し、転職後、K社の商品企画部長に「営業秘密」をメールで開示し、商品原価の比較データなどを作成させるなどしたケースです。
元社長は、不正競争防止法違反(営業秘密侵害罪)により懲役3年、執行猶予4年、罰金200万円を命じられ、K社も罰金3000万円を命じられました。
なお、「営業秘密」を持ち出すことに協力させられたH社の部下は罰金50万円、元社長から「営業秘密」を開示するメールを受け取り、商品原価の比較データなどを作成したK社の商品企画部長は懲役2年6か月、執行猶予4年、罰金100万円を命じられています。さらに、H社はK社に対して損害賠償請求を提訴しています。
企業は、いま一度、これらのリスクに巻き込まれないための対策を確認しておくことが急務です。
転職者による「企業秘密」の持ち込みを防ぐための方策
転職者が、前職の「企業秘密」を「お土産」として持ち込むことは従来からよく見られてきた光景です。しかし、不正競争防止法が2003年に改正され、前職の「営業秘密」(①非公知性、②有用性、③秘密管理性を満たす技術上または営業上の情報)の不正取得、不正開示は刑事罰の対象となりました。
2015年にはさらに改正され重罰化し、また持ち込まれた企業も刑事罰の対象となっています。
現在は、前職から「企業秘密」を「お土産」として持ち込むことは犯罪行為になり得ると認識を改めさせる必要があります。
中途採用する企業の情報管理に対する問題意識が高くとも、転職者の問題意識が低いと、転職者は従来の感覚のまま前職の「企業秘密」を「お土産」として持ち込んでくる可能性があります。なかには、転職者がいち早く成果を出したいからという自分の利益のために前職の「企業秘密」を持ち込み、中途採用された企業で使用、開示することもあります。