大ヒットを生み出す「極端すぎる消費者」たち 「そこまでやるか」がマーケットを作る
もうひとつ事例を紹介しましょう。以下の写真は、何かおわかりになるでしょうか。実はこれ、皆さんの自宅にも1本はあるはずの殺虫スプレーです。その殺虫スプレーをカラフルなマスキングテープでデコレーションしているのです。
デコっているのは30代の主婦。なぜ殺虫スプレーをデコるのかと尋ねると、その主婦の方は「実物はもちろんのこと、ゴキブリのイラストでもとにかく見たくない」とのこと。一方で家の中でゴキブリを見つけるとすぐにスプレーを吹き付けて退治したいので、手に届くところ目に入るところに置いておかねばなりません。そこで殺虫スプレーをデコっているわけです。単にかわいいからデコっているのではなく、彼女なりの実用上の理由が裏にはありました。
筆者は消費者の生活実態やライフスタイルを定点観察するために、定期的に訪問観察調査やフィールドワークを実施していますが、ここで紹介した事例のように、さまざまな家庭や利用シーンに遭遇します。行動観察の価値は、観察者が当初、想定していなかった行動の発見にあります。ただ漫然と観察するのではなく、想定しなかった行動や使い方に、できるだけ出合える確率を上げていく必要があります。
そこで合言葉は「極端なユーザーを探せ!」です。
なぜ「極端なユーザー」なのか?
行動観察は、特定の行動を観察し続けることで、課題解決のヒントやアイデアの種を見つけるのに長けた手法です。
かつてJR東日本も2001年のSUICA導入の前に、田町駅にあった臨時改札を使って、自動改札のデザインを決定するために大規模な行動観察調査を行っています。その際はICカード対応の改札を通過する人たちの行動を何百、何千と観察し、その結果、タッチする場所の形や角度において最適なデザインが見いだされました。前回記事でご紹介したギョーザのケースも同様の狙いがあります。
最近、注目されているのは、こうした特定の行動に注目する手法に加えて、想定しなかった行動や使い方をするユーザーに注目する手法です。創意工夫や知恵によって、極端、あるいは異端な使い方をする消費者を発見し、その行動を観察する中から、ヒット商品のヒントを発見しようという試みです。
これら手法においては、現在ある商品やサービスでは満たされない自身のニーズを創意工夫によって満たしている、ほんの一部の消費者を発見することに注力します。つまり、商品開発担当者がゼロからアイデアを発想するのではなく、“極端なユーザー”または“極端な使い方をするユーザー”を発見し、そこからアイデアを膨らませていくわけです。こうした極端な使い方をしているユーザーのことをエクストリームユーザーと呼びます。
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