大ヒットを生み出す「極端すぎる消費者」たち 「そこまでやるか」がマーケットを作る

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エクストリームユーザーが注目されている最も大きな理由は、単に商品が売れるだけにとどまらず、大きな可能性を秘めていることにあります。彼らは時に既存の商品やサービスに対して、独自の感性で常識と非常識の境目、ボーダーライン的な使い方をします。

そうした使い方から新しい商品が生まれて、文化にまで発展した例があります。そのひとつが「ターンテーブル」です。

常識では考えられない使い方が、市場を創造する

ターンテーブルは、レコードを鳴らすためのオーディオ機器。現在はCDや音楽配信に取って代わられましたが、かつて音楽はレコードで楽しむものであり、そのためにターンテーブルは必要不可欠な機器でした。ところがレコードは高価で、たくさんは買えない北米のティーンエージャーたちが1枚のレコードを遊び倒すために、ターンテーブルに置いたレコードを操作してスクラッチ音を鳴らすという新しい試みを始めました。

レコードを置いて音楽を再生するというターンテーブルの使い方の常識を覆すエクストリームユーザーの登場により、北米ではスクラッチ音を楽しむストリート発の音楽文化が登場します。行動観察によってその状況を把握したオーディオメーカーは、レコードを純粋に聴くためではなく、レコードに手で触れて操作しながら多彩なスクラッチ音を発生させる機能を備えたターンテーブルを発売します。

それがプロのDJやミュージシャンに受け入れられるようになり、やがてヒップホップというまったく新しい音楽ジャンルへと発展していきます。このように、エクストリームユーザーの小さな気づきから、これまでにない商品が生まれ、さらに新しい音楽ジャンルの誕生に結び付いたわけです。

常識では考えられないような使い方をするエクストリームユーザーは、これからも社会的にインパクトのある変化を起こしていくでしょう。それが極端であればあるほど命題につながる糸口になりやすく、大ヒット商品を生み出す可能性が高まります。

お化け商品であるP&Gの『ファブリーズ』をヒットさせるきっかけになったのは、9匹のネコを飼っていた女性であり、完璧に掃除をしているのに1本の『ファブリーズ』をわずか2週間で使い切ってしまう女性でした。つまり、ヒットの背景にはエクストリームユーザーの存在があったのです。

ICTの発達などによってエクストリームユーザーを発見しやすくなっています。行動観察によって彼らを発見し、戦略を立て、協働作業で市場をつくり、さらには文化創造を目指す。そんな新しいマーケティングモデルの探索はもう始まっていると思います。

高橋 広嗣 フィンチジャパン代表取締役

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たかはし ひろつぐ

早稲田大学大学院修了後、野村総合研究所経営コンサルティング部入社。経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルタントとして活躍。

2006年「もうひとつの、商品開発チーム」というスローガンを掲げて、国内では数少ない事業・商品開発に特化したコンサルティング会社設立に参画。食品、飲料、通信キャリア、化粧品、製薬メーカー等の事業・商品開発支援を行っている

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