94歳「伝説の大道芸人」命を削って踊り続ける理由 身体が思うように動かなくても、観客は満員

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美術家の橋本悠希さんは、この日の舞台に飾られて存在感を放っていた、ギリヤークさんの人形を制作した方だ。舞踏家の人形制作をしているうちにギリヤークさんのことを知り、「絶対にこの人の人形をつくりたい」と、魂を込めて形にしたのだった。橋本さんは、ギリヤークさんの魅力をこう話す。

「歌舞伎の演出で『やつし』というものがあります。本当は高貴な身分なのに、みすぼらしい姿に身を落とす、というもの。最初にギリヤークさんの公演を見たとき、これが神の『やつし』か、と思いました」

ほかの観客たちも、ほとんどの方が今回の公演に満足したと答えた。筆者も同じ感想で、終演後にギリヤークさんに「素晴らしかったです」と伝えると、小さく微笑み返してくれた。

ギリヤーク尼ヶ崎
橋本悠希さんが制作した、ギリヤークさんの人形(撮影:風間仁一郎)
ギリヤーク尼ヶ崎
クライマックスで、母の遺影を手に「母さーん!」と叫ぶのがお決まりだ(撮影:風間仁一郎)

生き方そのものがギリヤーク尼ヶ崎

しかし、当の本人はどうだろうか。ギリヤークさんはかつて報道番組で、パーキンソン病の発症後に行った公演の感想を、「悔しい」と話していた。

「元気のいいときの踊りがみんな目に焼き付いている。それと比べられる。苦しい、悔しい。悔しさはあるよ、芸人だもの」(ギリヤークさん)

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もしかしたら新宿公演も、満足のいくパフォーマンスを披露できなかったことを悔しがっていたのではないだろうか、と推察する。

94歳という年齢や病気などなんのその。芸歴を重ねるごとにより良い公演にしなくてはいけないのに、と唇をかんでいるのではないか。

人前で芸を披露することすら大変な状態でも、公演の出来に厳しくこだわる。雲のように高い志を持つ大道芸人が、ギリヤークさんなのだ。

そして公演で見せる姿だけが、ギリヤーク尼ヶ崎ではない。生き方そのものがギリヤーク尼ヶ崎、まさに「全身大道芸人」だ。

2025年1月、ギリヤークさんには絶対に成し遂げたいことがあるという。

阪神・淡路大震災の被災地で、約20年間踊り続けてきた。体調の悪化によりしばらく休止していたが、震災から30年の節目に、再びあの地で踊ることを目指している。

ギリヤーク尼ヶ崎
祈りを捧げるように踊る(撮影:風間仁一郎)
【写真を見る】思わず涙する人も…94歳の「伝説の大道芸人」が満身創痍で見せた「あまりに神々しすぎる踊り」(11枚)
肥沼 和之 フリーライター・ジャーナリスト

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こえぬま かずゆき / Kazuyuki Koenuma

1980年東京都生まれ。ルポルタージュや報道系の記事を主に手掛ける。著書に『究極の愛について語るときに僕たちの語ること』(青月社)、『フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。』(実務教育出版)。東京・新宿ゴールデン街の文壇バー「月に吠える」のオーナーでもある。ライフワークは愛の研究。

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