そして、ギリヤークさんの踊りから発せられる「魂のエネルギー」に、人々は引き付けられるのでは、と続ける。今はヨタヨタでどうしようもないけど、と笑いながら付け加えた。
その1週間後、新宿の三井55広場。ここは、ギリヤークさんがほぼ毎年公演を行ってきた「聖地」である。快晴の空の下、約300人の観客が集まった。
公演前、黒子の紀さんが登場し、前説でギリヤークさんはあまり体調が良くないことに言及。その後、ギリヤークさんが車いすで登場した。動きや表情はほぼない。
無事に公演はできるのだろうか……おそらくは筆者だけでなく、観客たちもそんな一抹の不安を抱きながら見守っていたが、演目の音楽が鳴るとギリヤークさんは覚醒。身体は思うように動かなくても、激しく強い気持ちが伝わってくる舞いを披露し、ついには車いすから立ち上がって大喝采を浴びた。
演目の間には、薬の副作用で眠りそうになってしまう場面もあったが、紀さんが耳元で音楽を流すと、身体が自然と反応したのか踊り出し、芸人魂を見せつけた。
クライマックスでは、紀さんに支えられながららせん階段を上って観客に見得を切り、バケツの水を被るパフォーマンスを披露。観客から万雷の拍手と「ギリヤーク!」「日本一!」という掛け声や、おひねりが飛び交った。マイクを持ったギリヤークさんは、感極まった様子で「母さん、父さん、日本一の大道芸人になりましたよ」と声を絞り出した。
これが神の「やつし」か
観客たちにも話を聞いた。ギリヤークさんの活動初期から公演を見続けてきたという、演出家の小島邦彦さんと舞台俳優のそのだりんさんは、活動を継続していることがそもそもすごい、と感想を口にする。
「僕は73歳になるんですけど、20歳くらいの頃からずっと観てたからね。90歳でクローズだろうと思っていたけど、まだあるっていうのが本当にすごい。(公演中に)寝ちゃうところもすごいね」(小島さん)
「(昔のギリヤークさんは)激しくて、ぴょんぴょん飛んでました。あんなことしてたらひざが悪くなるって思っていました。でも、(車いすでの公演でも)寂しいとは思わないです、元は変わらないからね。100歳までやってください」(そのださん)
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