2024年10月、筆者は都内のとある団地の一室を訪ねた。表札には「ギリヤーク尼ヶ崎」とある。2DKの部屋に、ギリヤークさんは弟の光春さん(84歳)と2人で暮らしているのだ。
午後1時、パジャマ姿のギリヤークさんはベッドで眠っていた。部屋にはリハビリ用のウォーキングマシンがあり、取り上げられた新聞記事の切り抜きがたくさん貼られている。
光春さんによると、入浴などの生活介助はホームヘルパーにしてもらっているが、それ以外は何でもひとりでできるという。好きな時間に寝て、好きな時間に起きる。光春さんが作り置きした料理を、好きなタイミングで食べる。「牛乳も1日に4リットルくらい飲むんですよ」と光春さんは笑う。
「慣れ」も「新鮮さ」も両方ないとダメ
そう話している間に、ギリヤークさんが目を覚ました。前月に故郷の函館と札幌で公演をしたばかりで、1週間後には新宿での公演も控えている。話を聞いてみた。
――函館と札幌の公演はいかがでしたか?
面白かった。(自分が映ったニュース番組を)テレビで見て、ここでやったのか、って思ったんだよね。それくらい夢中でした。
――たくさんのお客さんが来ていました。55年間も大道芸を続けてきたギリヤークさんは、お客さんの前に立つとどんな気持ちに?
やっぱりプレッシャーはかかります。どれだけ長くやってきても、緊張があるんですね。「今日は大丈夫かな?」「ウケるかな?」なんて。でも、それがあるから、いい仕事ができるんじゃないかなとも思います。大道芸人っていうのは、人にもよるんでしょうけど、僕の場合は「慣れ」も「新鮮さ」も大事で、両方ないとダメなのですね。
――1週間後には新宿公演が控えています。
心配で心配で。何が心配かっていうと、(演目の)練習をできていないでしょう? トレーニング(リハビリ)は週に何回かしてるけどね。
――新宿公演を終えた後、ギリヤークさんがしたいことは何ですか?
映画(ギリヤークさんを追ったドキュメンタリー『魂の踊り』)を作ってね、やってるんだよね。この間ね、チャンバラ映画で、日本人が優勝したでしょう(真田広之が主演のドラマ『SHOGUN 将軍』。第76回エミー賞で作品賞・主演男優賞などを受賞)。そういう感じになりたいね。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら