プロ作家が取材で実践「本を書くための」ノート術 取材では「ICレコーダー」あえて使わず手書き派

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このように、私は手書きにはいくつものメリットがあると実感している。したがって、たとえICレコーダーで録音をしている時も、私は手書きによって得られる特有の緊張感を維持するため、それを聞き返すのは本の原稿をすべて書き終えた後にすると決めている。あくまでリスク管理や、最終段階での事実確認として使用しているのだ。

私的ノート術

ノートに取材内容を書き留める際に、本の構成のイメージまで作り上げるべきと述べたが、一体どのようにしているのか。

カフェや会議室など、テーブルを挟んでインタビューを行う時、おおよそ私は以下の図のようなスタイルでノートを取るようにしている。要点を簡単に説明したい。

(画像:『本を書く技術 取材・構成・表現』より)
〇ポイント1
ノートは見開き1ページずつ使うことが多い。主に左側のページに取材で聞いたことを書き記し、右側には、それ以外の情報(相手の表情、違和感、取材場所の描写)などをメモする。
上の空欄には、話を聞いているうちに思い浮かんだ次の質問や疑問を書き留めておく。
〇ポイント2
左側のページでは、インタビューの内容を時系列に沿って書くのではなく、話の中から意外性のある小ストーリーを見つけ出し、小ストーリーごとにグループ分けし、そこに当てはまると思った内容を書いていく。企業の経営者へのインタビューだとしたら、「社内派閥」「不正事件対応」「M&A」などと分類するということだ。
小ストーリーで分けるのには理由がある。意外性のある話を分類し、それぞれをストーリー化できるくらい情報を収集するためだ。また、あちらこちらに話が飛ぶことがあるので、それぞれのエピソードがどの小ストーリーに属するかを考え、適切に配置することも同時にできる。 
2時間の取材が終わった時に、小ストーリーのグループが4つから8つくらいできているのが理想だ。こうして作った小ストーリーは、本の構成を決める際に用いる。
〇ポイント3
右側のページでは、話題に出てきたこと以外のあらゆることをメモする。取材では話の内容こそが重要と思われがちだが、いざ文章化しようとすると、それだけではまったく足りないことがある。相手の言葉より、身につけている服のブランド、部屋にたちこめる異臭、壁にかけられた写真といったものの方が、より本質を表していることが少なくないのだ。新聞記事などの文章ではさほど重視されないが、文芸作品としてのノンフィクションには必要不可欠な情報である。
〇ポイント4
小テーマを深く掘らなければ、読者は意外性の背景にあるものを理解してくれない。それには、事前に用意した質問を順番に投げかけるのではなく、進行形の会話の中から「次に何を聞けば、話が深まるか」を考えるべきだ。時として、その質問が同時に3つも4つも浮かぶことがあるので、忘れないうちにマス目の外の空欄にメモしておく。

先に、私はこの一連のノートの取り方を「テーブルを挟んでインタビューを行う時」と条件をつけたが、それには訳がある。相手と立った状態で話を聞く時は、いくらノートを出していても、半分に畳んだ状態でなければ安定せずに字を素早く書くことができない。こういう時は、ノートを半分に畳んだ状態で、上の方に相手の言葉を書き、下の方にそれ以外の情報をメモするようにする。

いずれにせよ、重要なのは、小ストーリーを構築していくためのノート術、そして書籍としてまとめるためのノート術である点だ。人によって適した方法は違うが、一つの参考にしていただけたらと思う。

このノート術からダイレクトに説得力のある文章を構成していくコツは『本を書く技術』を参照してほしい。

『本を書く技術 取材・構成・表現』書影
『本を書く技術 取材・構成・表現』(文藝春秋)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします
石井 光太 作家

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いしい こうた / Kouta Ishii

1977年、東京都生まれ。海外の最深部に分け入り、その体験を元に『物乞う仏陀』を上梓。斬新な視点と精密な取材、そして読み応えのある筆致でたちまち人気ノンフィクション作家に。近年はノンフィクションだけでなく、小説、児童書、写真集、漫画原作、シナリオなども発表している。主な作品に『絶対貧困』『遺体』『43回の殺意』『「鬼畜」の家』『近親殺人』『こどもホスピスの奇跡』(いずれも新潮社)『本当の貧困の話をしよう』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』『教育虐待: 子供を壊す「教育熱心」な親たち』など。

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