プロ作家が取材で実践「本を書くための」ノート術 取材では「ICレコーダー」あえて使わず手書き派
3は、もっとも重要な点だ。
書き手は、あえてノートに書き取るという重労働を己に課すことで、インタビューをより充実したものにできる。
私は取材が終わると、同行した編集者から「そんなに手書きでメモをしていてよく疲れませんね」と心配されることがあるが、正直、疲労困憊する。私の右手中指の第1関節は曲がっているし、2時間の取材が終わった頃には右腕全体が痺れているほどだ。
そこまでして手書きにこだわるのは、書く作業が大変だからこそ、少しも無駄なことをしたくないという高度な集中力が生まれるからだ。相手の一言一句に神経を尖らせ、本全体の構成を考え、それに沿って重要な内容、引っかかる表現、微妙なニュアンスを効果的に配置して記録しようとする。極端にいえば、取材を終えた時点で、メモがそのまま作品の原稿の下書きに近いものになっているのが理想だ。
だが、ICレコーダーに頼っていると、無駄な安心感が生まれ、漠然とインタビューを行ってしまう。発言の真意がわからなくても、後で聞き返せばいいやと考えて放置したり、本の構成まで考えずに用意した質問を機械的にしたりする。これではインタビューを通して事実の核心に迫っていくことはできない。
緊張感こそがインタビューの質を上げる
その点、手書きであれば、自然と頭をフル回転させて神経を研ぎ澄まし、相手の話のどこに意外性があるのか、何を深掘りすべきなのか、どのように活字にするかを考えるようになる。私は、その緊張感こそがインタビューの質を上げると思っている。
4は、ノートには取材相手の頭脳をも活性化させる作用があるということだ。
目の前にノートがあり、書き手のメモを見ていると、相手はその文字からいろんなことを考える。「あ、今こういう表現をしましたけど、こうかも」とか「このメモで思い出しましたけど、こういうことがありました」といったことが頻繁に起こるのだ。
相手は話した言葉をその場で文字化されれば、それを土台にして新たなことを考える。相手の非を明らかにする取材などでは、必ずしもすべて見せる必要はないが、内容によっては意図的にノートを相手の目につくところに広げて、インタビューをすることが有効に働くのだ。
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