プロ作家が取材で実践「本を書くための」ノート術 取材では「ICレコーダー」あえて使わず手書き派
1から見ていこう。
ICレコーダーは、メモに比べて、相手にはるかに大きな警戒心を抱かせてしまう。
書き手がメモを取っていれば、相手は多少言いすぎたとしても、「この人なら、自分の発言を和らげてくれるだろう」と思うものだが、ICレコーダーの録音ランプが目の前で光っていれば、一言一句すべて冷徹に記録されて掲載されるような不安に陥るので、無意識のうちに「どこまで話していいのだろう」という気持ちになり、会話の内容や表現を抑える。これによって重要な情報が得られなくなることがままあるのだ。
ICレコーダーとメモが与える心証の差は大きい
ちなみに、警察官や官僚は、自分の発言が録音されることをとても嫌がるものの、手書きのメモに関しては認める場合が多い。録音は自分の立場を危うくする証拠となるが、メモはそうではないという意識があるのだろう。それぐらいICレコーダーとメモが与える心証の差は大きいのである。
2は、取材の内容を活字化するために有効なことだ。
インタビューの時、相手は非常に回りくどい言い方をしたり、不用意に過激な表現をしたり、意見をコロコロと変えたりすることがある。書き手は、言葉尻に振り回されてそのまま書くのではなく、その人の本当に伝えたいことをまとめて活字にしなければならない。
また、相手が時系列などお構いなしに頭に浮かんだことを言葉にすることも多い。そのため、書き手は後で話を整理し、会話の最初に出てきた話を最後に回したり、最後に出た話を最初に回したりすることになる。思いつきで語られる情報を、話の内容や時系列に合わせて記録するということだ。
こうしたことが「テキスト化」と呼ばれる作業の基本だが、ICレコーダーの記録を文字に起こして執筆の参考にすると、取材時の発言や時系列がそのままの形で目の前にあるので、それに意識が引っ張られがちだ。そうなると、本来の意味でのテキスト化の作業がうまくいかなくなる。
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