領内クルスク奪還へ焦り強めるプーチン大統領 侵攻から3年迎え2024年末に北朝鮮から追加派兵も

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2月24日の後、5月9日には最大の国家行事である対独戦勝記念日も控えているのだ。このままでは2014年のクリミアの軍事併合などから「戦争で必ず勝つ大統領」との支持を国民から得ていたプーチン氏としては、占領された領土を取り戻せない指導者となり、面目丸つぶれだ。

こうした日程をにらみ、プーチン氏の焦りは深まる一方だろう。これは最近のロシア軍の東部ドネツク州での攻勢ぶりにも端的に表れている。

ドネツク州各地でロシア軍はウクライナ軍から小都市や集落を次々奪い、占領地を拡大している。執拗に肉弾突撃を仕掛けてくる消耗戦戦術にウクライナ軍側も疲弊し始めているといわれる。

この攻勢も侵攻3周年日をにらみ、軍事的戦果の誇示を狙ったプーチン氏の号令を反映したものだろう。

アメリカが情報戦で後れを取った理由

では、今回の派兵問題をめぐる情報収集でなぜ、アメリカがウクライナや韓国に比べて大きく遅れたのか。その最大の理由は、インテリジェンスの世界でヒューミントと呼ばれる、人間を介した情報収集網をアメリカがこの地域で持っていなかったためといわれる。

これと対照的に極東に優秀なヒューミント網を持っていたのはウクライナだ。ウラジオストクなどに北朝鮮部隊が続々到着したことを地元で組織された住民スパイ組織が察知し、キーウに通報したと言われている。今後も、北朝鮮の追加派兵があれば、ウクライナの情報機関がいち早く察知するだろう。

しかし、これからのクルスクでの交戦を前に筆者として大いに気になることがある。派兵に関してホワイトハウスで記者団から「ウクライナ軍は撃ち返すべきか」と質問されたバイデン大統領がこう短く答えたのだ。「もし彼らがウクライナに侵入すれば、イエスだ」。

これをそのまま解釈すれば、北朝鮮軍がロシア領であるクルスクにとどまっている限り、ウクライナ軍は北朝鮮部隊を攻撃してはならない、との立場を示したと受け取れる。

元々バイデン氏はウクライナ軍が米政府に事前の連絡をせずにクルスクに越境攻撃したことに強い不満を示していたといわれる。この点を踏まえると、ウクライナ軍がロシア領に侵入したうえに、第三国である北朝鮮軍部隊を攻撃すべきではない、との考えを口にしたとも解釈できる。

ロシアから侵攻を受けたウクライナがクルスクで、ロシア側に立って参戦してきた北朝鮮部隊に反撃するのは当然、というのが常識的で国際的な見方だと思う。今後のバイデン政権の対応を見守りたい。            

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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